オシエル的 闇の告白

闇の告白　 /　 シャルル・ドゥ・アルディ

君の寝顔を見る―――

この一瞬が、オレにとってどれほど心安らぐ時なのか

君が知ったら何と言うだろう

明るい陽の元でまぶしく笑う君が

どれほど愛しいか

どれほど思い焦がれる存在か

痛いほどわかり過ぎている自分がいるのに

夜の闇に包まれて

その瞳閉じ、オレのそばにそっと横たわる君が

―――狂いそうなほどに、恋しい

抱きしめて壊してしまいたいと　何度思ったろう

明日の朝日などいらない

このままオレの腕の中で　永遠に幸福な眠りに身を浸し

このままオレの闇の迷宮で　永遠にそばにいてはくれないだろうか…

猥雑な世も煩瑣な出来事も

今は遠く去り

この世界には　オレと君だけ

怖がらないでいい

どうかオレの愛撫を受けてくれ

愛するだけで　よかったら

全ての及ばぬ遥か彼方で　恍惚のアダージョに君と溺れていたい

叶わぬ夢抱いて　今は命途切れる　戦慄のカランド

愛を体現する君を抱いて

なぜこれほど狂おしいのか

どうか教えて　マリナ

そして、君の寝顔にしか告白出来ない

臆病なオレを嘲笑ってくれ

時折溢れ出す、オレの世界の澱を掬い取ってくれるこの小さな手に

キスを許しておくれ

舞い降りてしまったオレの天使

今だけ

今だけ　その翼をオレに預けて眠ってくれ

離れていかないと　

確かなぬくもりを　どうかオレに―――

            「愛してる、マリナ　　　―――もう、離さない…」

闇の告白　†　銀　月　　幻　想　†　/　 ミシェル・ドゥ・アルディ

「―――チッ、気ぃ失いやがった…」 ぐったりと弛緩した小さな肢体を、ミシェルは、ゆっくりと離す。 ベッドに沈むその頼りなげな体。月明かりに照らされたその頬は苦痛に歪んで、まるで水でも被ったかのごとくの汗にまみれていた。 月が、もうあんなところまで昇ってやがる。 一体何時間、抱き続けていたのだろう……その光を、鬱陶しそうに視界の端にとらえながら、ミシェルは気だるげにベッドを降りた。 体はひどくだるいのに、胸の奥底の何かがまだ飢えて、その肉を求めていた。 まだ欲しい、…もっと欲しい！！ 抑えきれないほどの熱が、ジリジリとミシェルの体を炙った。降り注ぐ月光を受け、銀色に燃える白金の髪一房に、つぅと汗が滴り…音もなく闇の中へ落下した。 ―――俯いたまま、瞬間ミシェルは、テーブルにあったウオッカのキャップをひねり、一気にそれをあおった。 焼け付くような水が身体に注ぎ込まれるが、それでもミシェルの中を蝕む熱を、中和してはくれなかった。 湧き上がる苛立ちを隠そうともせず、まだ中身の残ったその壜を投げ捨てる。 銀色の光を浴びながら、ピリピリと音を立てそうな激情をまとった、美しい裸身の彫刻―――ミシェル・ドゥ・アルディ。 誰も省みず、また自身も誰をも省みず。 だが……… その不可侵の神話が、脆くも崩れようとしている、今、この瞬く刻に。 ゆるりと上げた透徹な美貌に、 どこまでも酷薄な笑みを飾り、 銀の影を従えて再び獲物へと近づいてゆく。 喰らい尽くせ、赴くままに…！ 自身の声にだけは、ミシェルはいつも従順に従った。それは一度として、自分を裏切ったことはなかったからだ。 しっとりと汗ばむ柔らかなこの肉に触れるだけで、細胞のひとつひとつが狂喜に踊るのがわかる！ たまらず上半身を抱き起し、なだらかに隆起する胸元にきつく歯を立てる。 「―――っあ、ぁ！」 苦痛に耐えかねてあがる声、じわりとにじむ紅の命の象徴。銀色の闇の中でそれは鈍色に輝き、あたかも水銀の珠のようにマリナの胸元を彩った。 これを呑めば、死ねるのだろうか。 そんなことありはしないと判りきっているミシェルは、極上のジョークを聞いたとばかりに微笑み、それを舌で舐め取った。 それはそれは優しく、あまりに慇懃に。 その様は、与えられた苦痛を憐れむような仕草だった。 「―――ミ、シェ…」 その時、か細い声。 「…ミ、…ェル」 それはうわ言。 「ミ、シェル……」 愕然と、ミシェルは小さな身体を抱きしめた。 これ以上ないほど力強く、しかし壊れ物を扱うように繊細に…。 震えているのは、誰だ？ こいつ？　それとも僕？ 滴ったのは、汗？　涙？ 早く、早く隠せ、気づくな誰も、銀の闇に全てを葬れ…！！ 天空で輝く孤高の絶対者。 真実も、イツワリも、お前だけが知ればよい。 だから今だけ、純粋なる想いをふるおう！ 張り付いた褐色の髪、そっと撫でつけ唇なぞる、 僕を見て…瞳あけて名を呼んで、 この想いに、形をくれ―――！ 決して交わらぬ体合わせ、それでもそれでもとむせび泣く心をかき抱き、狂わんばかりにきつく繋ぐ。 絡みついた言葉が、今も喉の奥で悲鳴を上げている。 しかしおそらく生涯告げられることのない、言葉。 荒い息遣いと乱れる呼吸、一時のまやかしの融解に全てを溶かし、この言葉も溶かしてしまおう。 ミシェルは一層激しくマリナを攻めたて、銀の闇の中でたゆむことなく……

言葉なくいつまでも　　　……その『告白』を繰り返した。

☟

【闇の告白】～Monologue of Under the Moon

動画Ver.　2016/10/2作成

長編連載ポルトオシエル闇編より、シャルルとミシェルのとある独白劇

月だけが、彼らの真実の姿を照らしています―――

読んでくれてありがとう