2011/04/09

epi:14 ずっと欲しい



パートミシェル コジカ


心底ムカツク野郎だよ、あんたは。
アレの記憶、心、身体、その意識の全てをあんたから取り上げて、全て貪り尽くし、そうしてアレのことごとくを奪ってやったのに。
果てはこれ以上ない絆を、アレの中に埋め込んでやったのに。
まだあんたはアレは自分のものだと言い張るんだ。
え? 兄さん、往生際が悪すぎだよ。
いい加減にしなよ。

あんたが身を引かなければ、大事なマリナちゃんは本当に壊れちゃうよ?
しかも何?
挙句の果てに、しばらくマリナをお前に預けるだって?
何で僕が僕のものを預かんなきゃなんないのさ。
あんまり笑わせないでよ。

そんなに笑わされると、僕は笑いすぎてきっと狂っちまうからさぁ。
僕はねえ、生まれた時から拒まれ続ける存在だったのさ。
周りのものからその全てから。
兄さんは拘り続けているけどさぁ、あんな狂った女なんか僕にとっちゃあ、全然要らなかったね。
何がいいのか全く分からないねえ。
手放しで兄さんにいくらでもくれてやったさ。
何の足しにもならない、はた迷惑なただの身勝手女。
どうせ狂ってんなら、そのままおとなしくさっさと成仏しろよと、どんなに思ったか知れないね。

そう、僕を取り巻く人間全てに持つ感情は、憎悪か復讐しかなかったさ。
自分から欲しいなんて思った事さえない。
誰も信じず愛さず、人間なんてただの物言う人形さ。
そんなバカを誰が相手しなきゃならないんだと、本気で思っていたね。

その僕が初めて人間を欲しいと思ったのさ。
これって驚きだろ?
アレの全てを自分のモノにしたいって・・・汚して、めちゃくちゃに壊してやりたいって。
誰にも見せず、全部を支配してやるって。
理由なんてない。
これって雄の本能って奴かな、ねえ、兄さん?
あんたの言う通りどうあがいても、結局僕達は双子って奴なのさ。
そこん所だけは同じDNAだと感じるよ。

ねえ、マリナ。
君はもう僕のものなんだよ。
君の腹の中の子供を含め、君の命、その微笑み、その想い全てがさ。
僕は永遠に変わらないよ、永久に君を求め続ける。
君が―――君が手に入るのなら、それでいいんだ。
その為ならなんだってやるさ。
理由さえなくずっと君の側にいたいのさ、そう必然的に。
なんたって君はね、この世で初めてこの目で見た「天使」なんだから。
また、僕を拒む気かい?
また、僕から逃げ出そうとする気かい?
そんな事はさせないよ、絶対に許さない。
絶対に、許さないよ、マリナ。
君は僕から離れる事は出来ないんだよ、僕から離れては生きていけないのさ、側にいることが必然だ。

ずっと、そう永久に、ね。
パートミシェル P


鬱蒼と生い茂る針葉樹の木立にまぎれて、一台の車がひっそりと身を隠していた。
車に近づいた人影は、闇をも弾く美しい影を従えていたが、そのしなやかなシルエットは、憤りに満ちた激しい拒絶を放っていた。
その様はあくまで闇に溶けこみ、たてる音すらないのだが、漂う雰囲気には近寄る者を震撼させる何かがあった。
その男―――ミシェルは素早く車に乗り込むと、苛立ちをぶつけるように閉めようとしたドアを、ふいに止める。
助手席では、シャルルが駆けつけるより早く、病室から連れ出したマリナが、静かな寝息をたて眠っていた・・・。
ふっくらした頬はいくぶん色を失って、闇にほの白く輝いている。
その白さになぜか目を背けながら、静かにドアを閉めたミシェルは、人知れず闇に向かって車を走らせるのだった。







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