2011/04/11

epi:19 熱い背



パートミシェル P


なんだ、何が起こったんだ、一体。


鼓動がうるさいくらい、耳元で鳴っている。
息をするのも苦しいくらいに、胸がしめつけられている。
あいつにつかまれた背中が―――、どうしようもないくらいに、熱をもっている。



なぜ、あいつはあんなことをしたんだ、唐突に。
いつも噛みつかんばかりに僕に逆らうあいつが、やけに小さく感じた。
やけにはかなく感じた。
やけに、まぶしく感じた。
引き寄せた時に感じたその柔らかさに、気が遠くなりそうだった。

もし、この握りしめた拳をほどいたら、僕は、何をしていた?
何を・・・したかった?
馬鹿な。


抱きしめたかった・・・と?

壊れるほどに強く、折れるほどにあいつを、抱きしめたかった?


そんな馬鹿なことあるか!

―――なんだ、あいつの声?
・・・泣いているのか?
何を泣くことがあるんだ!
僕が何をした、何もしやしない!
悪態もついてない、手も上げてない!
なのになぜ!?

―――何も、しなかったからか?
・・・くそ、胸が痛い。
僕にどうしろっていうんだ!
どうしろっていうんだ―――マリナ!
 
 

・・・・・・・・・・・・。
冗談じゃない、はじめから偽りのつくられた愛だ。
僕はあいつを苦しめるために、お前といるに過ぎない。
愛なんてない、あいつに愛されたお前を踏みにじることで、僕は満たされる。
あいつを狂わせるために、あいつを追い詰めるために。
愛なんてない、僕には愛なんて―――ない。
手に触れることの出来ない、そんな不確かなもの信じるなんて、馬鹿のすることさ。

ねぇマリナ。
お前の羽根をむしり取る瞬間だけが、僕の至福の時なんだ。
あの歪んだ表情を、僕に見せてくれ。
僕ですら底の見えない暗闇は、お前とシャルルの苦悶の顔で、癒される。
逃がすものか。
命尽きるまで・・・僕の気のすむまで、籠の中から逃がさないよ。
そんな日が来るとも、思えないけどね。

だからマリナ。
生意気に飼い主に逆らうような真似は困るんだ。
―――生意気だよ、本当に。
ドラッグは完璧のはずなのに、どうしてさ。
 


お前は僕の中に―――確かにシャルルを見てやがる!
 


鬱陶しいよ、お前の笑い顔。
あんなに目の前で見たいと思っていたものが、今目の前にあるのに。

違う、これはあいつに向けられた・・・モニター越しにいつも見た、”シャルルに向けられた、シャルルだけの笑顔”だ―――!!

あんたはどこまで僕の邪魔をすれば気がすむのさ、

消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ!
僕の前から消え失せろ!
 
 

ポケットで眠る真珠色。
麗しい夢の結晶。
どうか僕の願いを叶えておくれ。
もう一度、これ以上ないほどに・・・命奪うぎりぎりの量を、
マリナ、お前に与えてやろう。
僕しか見えないように。
忌まわしい双璧の幻を消し去るために。

その狂った無償の愛で、僕に安らぎを与えておくれ。
ねぇ、―――天使?







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