2011/04/15

epi:23闇編 ミシェル・フォリー2



パートミシェル コジカ


胸に・・・穏やかで安らかな、マリナの寝息がかかる・・・。

君は、どこまでも柔らかくて、そしてとても温かいね・・・今まで知らなかったよ。
僕が触れようとするたびに、僕がお前の部屋を訪れるたびにいつも、恐怖で固まり歪んでいた君の顔が、かすかな微笑を浮かべている。
決してまわされる事の無かった君の腕が、僕の背中を抱きしめる。
肉欲では繋がる事の無かった心が、触れ合う事が無かった気持ちが、静かに重なり合う。
僕が作り上げた偽りの愛の中で、永遠に愛し合う・・・。
このまま・・・抱きしめあったまま世界が終わったら、時間が止まってくれた、ならどんなにいいだろうね。


普段の輝きや強さがまるで嘘のように、明らかに僕とは違う、男とは異なる性であることを、嫌でも確認させられてしまうよ。
同じ人間でありながら種が違い性が違い、圧倒的に弱々しく出来ていながらも、全ての源となる生命を産み出す存在。
今まで思いもしなかった、考えもしなかった・・・そして、決して感じることのなかった、自分を揺るがす感覚に襲われる・・・君が・・いとしいと。
鳩尾が・・・いや、これは心臓の奥深くだろうか?
今まで経験したことの無い甘い痛みに震える。
そう、痛いのか心地良いのかおかしいのか、まるで整理の付かない・・切ない震えだよ。
また君に教わったね。
あらゆる思考は脳で作られる物だと思っていたけれど、心は確かに、胸にもあるんじゃないかってこと。
シャルル、こいつはお前の動力源なんだろう?
なんとなく僕にも分かってきたよ、あんたがそこまでこれに執着を見せる理由が。
最初は全く理解できなかったけどね、偶然にも見つけてしまったのさ。
虚無しかないその世界で、心を吹き込む存在を。
この育ちきらない小さな身体につまった、溢れんばかりの魂の輝きに感化され、それとの同化を切望するのを。
そしてそれに動かされていく自分の、今まで気づきもしなかった人としての潜在能力を、潜在意識を目覚めさせる存在を。
知り尽くしたと思っていた自分が、まだ無限の未知を持っていることに気づいたんだろう?
気づかされていくんだろう? 側に置くことで―――。
以前・・・そういえばお前はよく、何かの一つ覚えのように言っていたっけ。
「オレに出来ないことは無い、一つもだ」と。
あの高慢ちきな面と、それに続くセリフが今浮かんだよ。
「マリナがオレの側にいれば・・・」
そういうことなんだろう?
自分の空ろな魂を補う存在。
そう、いいかえれば魂の伴侶とでもいうのか。
こいつが、たまたま女だったことに乗じて、お前は結婚という形で、是が非にでも側に縛りつけとおきたかったのさ。
気休めにも・・・決して自分から離れていかないように。
そばに置くことで、壊れゆく自分をどうにか留めている。
こいつがこの世から本当に消えたら・・・あっという間だろうね・・・お前の全ての崩壊は。
まぁ、全く意外にも女としてもこいつは楽しめるけれど、愛だの何だのと唱えて、それに伴う行為に隠れてはいるけれど、結局お前の真実はもっと深いところに在る。
いつだったか面白いほど荒れ果てて、娼館通いやら、女をとっかえひっかえしていた時も、どれもこれも長くは続かなかった理由はつまり、そういうわけなんだろ?
求めるものが唯一ここにしか無いんだから。
クク、だからうかつに手が出せないのさ、さすがの悪党一族アルディであってさえね。
そう・・・僕達の母親にしたようなことは。
―――父にとって、決して唯一ではなかった、あの女のようには・・・。
マリナ、お前もつくづく大変だね。
あの男は僕と同じく、半端じゃなくしつこいよ。
加えてまんまと騙されて、あんな厄介な、いかれた風習だらけの旧公爵家に入っちゃったからさぁ。
あの男だけでなく、同時にアルディにも追われ続けるよ。
そう、どこに逃げても必ずね。
恐らく君は永久に逃げられない。
シャルルがお前を求めている限りはね・・・。
と、いうことはつまり―――永遠さ。
当然アルディも、シャルルは何が何でも手放せないアイテムなのだから、然りだね。
あの・・・狂った母親を君にも見せたかったよ。
アルディに押しつぶされて、最期まで自由も無く飼われていた、あの哀れな女を・・・。
一歩間違えればそういうところさ、あそこはね。
一切そういう世界に関わらず、日本でおとなしくマンガでも描いてりゃあ、どんなにか幸せだったかもしれないのにねぇ。
一般人として、あんなおぞましい一族っていう付録が付いてくる男に追いまわされることも無く、ね。
あの兄が今何考えてるのか知ったこっちゃないけど、仮にあの男に再び捕まってしまったら、君は今度は一体どうされてしまうのだろうかねぇ?
一度でも・・・君を知ってしまったんだもの、あれは何があっても君を諦めないはずだ。
想像するだけで怖いよねぇ。
聖人ぶってるけどあいつはもっと、・・・そう、限りなく危険な曲がり者さ。
全てを知り尽くさなければ、満足出来ないっていうかさ、ありえないくらい粘着質だし? その分欲望も強く、本来はとんでもない激情家だよ。
皆あの憂鬱な見てくれに騙されてはいるけれどさぁ、あいつ自身もそれをご自慢の精神力で取り繕って、いや、抑え込んではいるけれど、僕には手に取るように視えるし、それが、その執着性が僕同等か僕以上かも知れないって・・・よく分かるんだよ。
なんてったって僕達は双子なんだから、腐ってもね。
あいつがまだプッツンした状態なら、例え戻っても、そこに君の自由は無いんじゃないかねぇ。
更なる束縛の人生だね。
そうだよ、どこにいってもね、もう君に自由は無いのさ、かわいそうにね。
君に気づかれること無く、バイオチップを埋め込んでいた男だもの―――お次は何でくるでしょう?
ハハ。
加えてインチキ医者業なんか趣味にしてるくらいだから、なんでもござれだねぇ、怖い怖い。

光なんて決してささない僕達の「狂気」

―――それが生来の・・・アルディに生まれた僕達双子の―――本質だ。

脈々と受け継いだ血筋って奴さ。
狂いっぷりは、更にあの母親からも色濃く受け継いじゃったかもねぇ。
あの一族の中にいても、その気質は抜群さ、もう最悪だよね!

しかし・・・別れ際に
「マリナをお前に預ける」
といったあいつが、そういって薄笑いを浮かべていたあいつが、血が凍るほどに不愉快であったと同時に、たまらなく不可解だった。
一体何を考えているんだよ、シャルル?
初めてお前が読めないよ。
でももう、お前もことも、アルディもどうだっていいよ。
ただし僕の邪魔さえしなければね。
何人であっても、”これ”に触れようとするものは徹底的に潰すから、その覚悟でね?
僕はもう自由なその羽をもぎ取って、ここから決して逃げていかないように・・・そうしてその全てを、手に入れたんだから・・・。
これが偽りであっても、
自分の内面が壊されていっても、
全てがこの中にあるのだから、
これに触れたことでの破滅なら喜んで・・・、
そして、ますます濃くなる闇によって砕け散ったとしても、

その全部を・・・この身で引き受けるよ。


ああ、願わくは最後まで・・・それが出来るのが叶うならば・・・
それは誰より、自分でありたい――――











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