2011/04/15

epi:24闇編 狂愛



パートミシェル コジカ


―――夜空をそのまま映し取ったような瞳に、僕が写る。
今手にしているこの温もりこそが、本当に手に入れたかったものだったのか・・・?
僕は無意識のどこかで何かを捜し求め・・・魂が飢え続けていた。
そのものに、やっとたどり着けたのだろうか―――。
何かが心の奥底から満ちる・・・。






人は突き詰めれば皆孤独だ、気付けば堪えられようもなく。
だからこそ切実に願う、永遠に続く唯一が欲しいと。
―――それは何処にも無いのに・・・。

誰からも愛されず、そして誰をも愛さなかった者こそ、始めて感じた愛しさは激しく狂おしく、そして同時に極めて純粋な想いとなる。
記憶がなくとも、どこかが外れた様な僕の異常さに、噛み付かんばかりに拒み抵抗し、僕を恐れ、逃げ惑ったアレを、半ば強引に力ずくで犯した。意識あるなしに関係なく。
昼夜関係なく、自然に体が覚えこむように、決して逃げられないのだということを・・・離れられないのだということを。
・・・二人だけの世界に、作り出された闇の世界に、アレを縛り付けて・・・。







僕が与える苦痛に歪み泣き叫ぶ幼い顔は、醜悪さと紙一重の、壮絶なまでの美しさだった・・・。
決して飽きることなどなく壊し続けてしまいそうな凶暴さを秘め、何度でも、自分の組み敷いた下にそれを見ていたいと感じた。
あの高慢な片割れが、唯一愛した女だということが、今まで抱いてきた数知れぬ女たちの中で、格段の差の価値となる。
あの男の唯一を最も効果的に、そして最大の痛手を与える形での、復讐という名のツクラレタ愛。
突然強引に夫から、愛する者から引き離した男が、全てを陵辱し愛をささやく。
女にこれ程狂った悪夢があろうか!
愛する者への攻撃に、あの男はとてつもない弱さを見せる。
そこは初めから渇ききり、温もりも思いを受ける器さえも、もちろん存在などしていなかった。
永遠に隠そうか、それともやっとたどり着いたあの男の目の前で、僕のこの手でこの世から消し去ってしまおうか・・・。






照らされた光に戸惑い、流され始めた自分自身に嫌悪を感じていた。
これからの処し方に迷い生じ始めた時、事実唐突に、降臨した天使。
僕の奥底のそれまでは眠っていた意識が、生まれて初めて、根底から揺さぶられた気がした。
この可能性と同時に、最強の武器を、この時手にした。
どんなに飛べないようにと羽をむしりとっても、たくましく何度でもよみがえる、明るい陽。
恐ろしいほど残酷に、どこまでも冷酷に、闇の世界に君臨する者。
誰もが恐れ、この曲がり凍てついてしまった魂を溶かすことなど、決して無いだろうと、言われてきた。
それでもその光は、触れれば触れるほど、僕の中の何かを少しずつ少しずつ壊していくほどに、強いものだった。
そしてそれは、奇跡のような慈悲の光だった。
持て余すほどに・・・。






闇の支配者が光を、愛を知ったら、そこにはどんな罰が待っているのだろう?
運命の神がいるのだとしたら、せめて教えて欲しい。
闇は光によって、消え去らねばならない運命なのか
永遠を求めてはいけない運命なのか
そして僕は―――永久に救われない運命なのか
生まれて始めて味わう愛しさを胸に、同時に意識のどこかで、崩壊を感じるこの永遠に、今はただすがるしかない自分を感じた。
一秒一秒がこんなにまでも・・・壊れそうなほど、いとおしく感じる瞬間を、知らなかった。
一体自分のどこに、こんな気持ちが隠れていた?
一瞬ごとに、気持ちが最高を塗り替え、その側から更新されていく。
自分が誰かを、これほどまでに愛せるとは思わなかった。
そんな存在に出会えるとは思わなかった。
変化していく自分を止められなかった。
こんな想いはおそらく一生、忘れることが出来ないだろう。
誰かが側に居て、少なからず自分のことを、心の底から思っていてくれることの幸せ。
取り繕われたものでもなく、見返りを求めるものでもなく、嘘偽りでなく。
ただまっすぐなまぶしいまでの、純粋な気持ちで。
それを肉親でもない、全くの他人である君からもらった。
人種も違う、肌の色も瞳の色も、身体も全てが違う君から。
愛情とは程遠かった肉親達。
生まれてこの方、安らぎや癒しを自分に与えてくれる者など、いなかった。
だから、気持ちをどう表していいのか分からない。
伝え方が分からない―――。
自分の想い全てを失っても、どこかであいつを探し続けるお前が、たまらなくもどかしかった。
今君が見せるこの思いは、全て虚実から生まれたもの。
真実の所では、僕のことなど決して見てはいないという思いが、自分を苦しめ責め立てる。
憎しみが支配する、狂気に身を染めた自分であるならそれでいいと思う反面、その事実に次第に我慢ならなくなっていく自分がいる。


どうして・・・?


どうしていつもいつも、自分の思いは叶わない!?


結局あの男に、全てを奪われ続ける運命、なのか?


まるで影のように、理不尽に幽閉され続けた自分。
狂った母親の慰み者でしかなかった自分。
すべてが我慢ならない。
気味が悪くなるほど酷似している片割れ。
そしてそれの代わりとして、僕に重ね合わせて―――わかってる、わかってるさ―――、まっすぐに微笑んでいる、僕の唯一。


愛おしい・・・


君が与える震えるように切なく、壊れてしまいそうなほど激しい想い。
生まれて初めて味わう、どこまでも穏やかな安らぎに癒される自分。
しかし同時に、湧き上がるどす黒い・・・何もかもを飲み込んでしまいそうな嫉妬心を、もはやどうしようもなかった。
全く違う方向を向いた、相反する強烈な想いが衝突し合い、内側から自分を切り裂き分裂させ、気付かないほど少しずつ、少しずつ腐り・・・



そして新たな、凶暴な狂気へと、己を導いていく。








読んでくれてありがとう



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