2011/04/15

epi:26闇編 お前との世界



パートマリナ&ミシェル P




『あ、あんたこんな時までやめてよっ! 時と場合を考えなさいよねっ、皆が見てるじゃないっ!』

聞こえるのははつらつとした明るい声、画面には頬を染めた満面の笑み。
やっとつかんだその笑顔が今、自分そっくりな男の隣で当たり前のように輝いている。
これが本来あるべき姿―――いや、あの男は僕か? これほどそっくりなんだ…あそこにいるのは、僕だったかもしれないのに…。

『…というわけで! 長年の熱いアプローチがついに実を結び、我々は今日初めて、現代に蘇った輝けるシンデレラストーリーの証人として、ここに同行することを許されたわけですが……』

何度目の再放送だ? いや、別の特集番組だったか。


興奮しきったレポーターの下卑た声が耳ざわりだったが、ミシェルは冷めた視線で、画面の中のくるくると動き回る笑顔だけを追った。
次期大統領との呼び声も高い、旧侯爵家アルディ財閥当主への世論の関心は、ことさら高い。
だがその実像はヴェールに覆われ、今だ秘密に満ちていた。
ところが数週間前から、アルディ当主は今まで覆い隠していたはずのその存在を、どういったわけか世間にアピールするようになり始め、他の追随を許さないその繊細な美貌と、異国のしかも身分も何も持たない少女のような東洋人夫人との生活が、連日のように画面や紙面に報じられるようになったのだ。
ゴシップの好き好きに関わらず、それはあっという間に世間に浸透し、上流社会における純愛物語として、社会現象を引き起こすほどの勢いであった。
おそらく世界中の人間が、一度は目にしているだろうほど、今や二人の顔はブランドと化していた。

―――フン、滑稽だねシャルル、こんなものまで用意してたなんてさ。いよいよ背水の陣ってわけだ。
しかしなんて皮肉だろうねぇ、あんたがそうして自分の身を削るほど、僕たちが遠くなっていくなんて―――。

ミシェルはこみあげる笑いを堪えることが出来ず、一人肩を揺すって、画面に移る鏡像のような顔を手のひらで覆った。
全てが遅いんだよシャルル、僕はもう、自分の顔を捨てる事だって出来るのさ。
まるで”オリジナル”を競うように、今までお互い姿を変えなかったけちなプライドなど、今やどうでもいいんだ。
ああ、開放された気分だね。
あんたは自分の存在を晒すことによって、僕を…マリナの痕跡を掴もうっていうんだろう? 
だとしたら読み違いもいいところだよ、僕たちは誰の手も届かない所へ行く、そう―――誰も知らないその扉から、そこから全てをはじめるんだ―――。


ねぇシャルル、聞いてくれよ。


あいつ、マリナが僕をまっすぐに見て言ったんだよ。

自分から僕についていくって、

大事にしてくれって!

僕はこれから先、あの笑顔をあの熱をあの光を独り占めして、

ずっと生きていけるのさ!


あんたは全て持っているんだ……だから、いいだろ? 
マリナひとりくらい、僕にくれたっていいよな?
祝福してくれるよね、兄さん―――?

「…シェールっ。ミシェルったらぁっ、どこにいるのよっ!」

ドア向こうから、自分を探す明るい声が聞こえる。
なんと心地よく耳に響くのだろう……ミシェルは満足げに瞳を閉じると、しばらくその呼び声には答えずに、優越感という甘い蜜に浸りながら、頬杖をついて聞き惚れていた。
今度はどんなくだらない用事だろう、どうやってからかってやろうか、―――とにかくあいつのへちゃむくれた顔が、すぐ見たいね。
ああ、どんなゲームでも負ける気はさらさらないけど、マリナとのかくれんぼだけはお手上げだ。
だけどシャルル、あんたとの退屈な鬼ごっこには飽き飽きだ、僕たちは降りるよ。



―――何を言ってるんだろうねぇ僕は、どちらもやったことなどないというのに―――。



ミシェルは危うい微笑をうっすらと浮かべると、しなやかに立ち上がり、決別するように…





「僕は忙しいからもう行くぜ。

アデュゥ―――シャルル・ドゥ・アルディ」





決別するように…自分そっくりな男の顔を画面から―――消した。












「なんだよマリナ、僕がいないと何にも出来ないのか、しょうがないやつだな。
最もお前みたいな欠陥だらけの奴には、慈悲深い僕は、同情申し上げないといけないか」
「なっ、調子にのるなっ! あんたっ、引越しする前にそのクセ直しなさいよ!!」
「僕に癖なんかないね」
「あるわよっ、強烈にヤなやつがねっ。機嫌がいい時、いつも以上にあたしをイジメルことよ! また悪だくみでも考えてたんでしょ、すんごく楽しそうだもの」
「お言葉だねぇ―――今まで生きてきてこれ以上ないくらい、素敵なことを考えていたのに。

正に、生まれ変わった気分でね」


ドアを開ければそこにはマリナがいる。
廊下の窓から降り注ぐ光に包まれたマリナが、ミシェルを待っていた。
なだらかな頬の稜線に、うっとりと視線をなげかけると、いつまでも飽きることなくその姿を追った。



眩しい…その明るさに目がくらみそうだ、光に邪魔されて、お前がよく見えない。


光が邪魔だ―――、なぜだマリナ、お前が見えない! 



急に底知れぬ不安に襲われたミシェルは、あらん限りの力でマリナを引き寄せ自分の中に囲うと、

息も絶え絶えにその小さな体を抱きしめる…。




「いた…っ―――ど、どうしたの、ミシェル。具合でも悪いの!?」
「マリナ、マリナ」
「な、なによ」
「行くな、どこにもいくな」
「行かないわよ、何言ってるのよ、ねぼけてんのっ」
「――――――考えたことある、マリナ?」




…よせ、言うな。


こんなこと言ってなんになる、馬鹿なことを言うな! 





「もし、僕と同じ顔のやつがいたら、どうする? 


僕だと思ってた奴が実は全然ちがう別人で、それを知らずに受け入れてた……なんてさ」






読んでくれてありがとう




2 件のコメント:

ゆうん さんのコメント...

こんばんは!ぷるぷる様♪

きゃあ~っ!ミシェルとマリナの想いが通じ合ってのキス!すっごくどきどきしました^^
え~い!このまま最後までいってしまえ~!!と思ったら、ミシェルったらマリナの涙に躊躇してしまって残念☆です^^
それにしてもミシェル・・・マリナちゃんの目の前でなんて事を!さっすが闇編!いったいこれから二人はどうなってしまうのか!?そしてシャルルは!?うわ~んっ続きが楽しみです~!!

ぷるぷる さんのコメント...

うわんwゆうんさん、いらっさいませ!
痛い話読んでくれて…あり、あり…ダイジョブですか…?(笑)
思い…ね~、うふふ、通じ合ったがもう不幸のウチ~v 所詮は”偽り”ですからね、そうは問屋は卸しませんゼ、ミシェル君。マリナちゃんをあんなにイジメおって、女の敵めっ(笑) いくらシャルルにそっくりだからって簡単には許さんゾっ! ちょっとは良心のカシャクに苛まれるがいい…、ふふふふふ。
…アブナイですねぇ、ぷるフォリー、クス。
正直な話、実はこれ書いててやはし気分悪くなるんでふよ…(コッソリ) もし自分がマリナちゃんの立場だったらと思うとそれはもう恐ろしいやら腹が立つやら…!(><)
ミシェルはこれで完全に失敗を犯しました。

人は一人の方が強いのか、それとも誰かを心に入れた方が強いのか…

その人の心は欲しいが、しかしそれは同時に弱点にもなるわけでございます…
これよりマリナVSミシャルVSシャルルの三つ巴でございますw 最後までリングに立っているのは誰だっ!? じゃじゃーんwてな感じでまた見に来てくださいませ、ゆうんさん♪ いつもありがちょうっ、明日も元気100倍、シャルマリぴんくで○ーンぱーんちっ☆(謎)