2011/04/14

epi:28光編 愛してるのに



パートミシェル リンダ


マリナが言った

「アンテロス」と

とても驚いた顔で・・・

今の俺をすり抜け時空を越えて

あの瞬間全てが終わった―――







『アンテロス』


それはもうずっと昔、俺がマリナと初めて逢った姿。
あの時は、そう、シャルルのフリをしてマリナに近づいた―――シャルルの壊れた心として。


俺は何をしてたんだ・・・


思い出したマリナ
全てを知っても責めなかったマリナ
俺の肩を優しく抱いたマリナ


―――離れていくかもしれない恐怖


そして、完璧だったはずの薬
ナゼ・・・ナゼ・・・何故だっ
マリナは俺の事を、アンテロスとして思い出した。
シャルルとしての俺ではなく、
俺を俺として―――思い出して・・くれた。


マリナは俺と初めて逢ったもうずっと前から、俺をミシェルとして受け入れてくれていたんだ・・・。
俺はいつもシャルルのそっくりとして見られ、比べられた。
シャルルに出会った人間は皆、俺をシャルルと呼んだ――シャルルと・・・。
俺はその場に居ても、決して存在しない、
きっと誰の心にも、俺は住まない。
存在するのに、存在しない。
居るのに、居ない。
ミシェルなのに――――シャルル
自分が劣っていた訳ではないのに、誰もがシャルルを選んだ・・・いつも、いつも。

そして、全てを思い出した今、マリナもきっと・・・


きっと――――シャルルの元へ・・・


一番愛しいマリナも―――


俺の前から居なくなる・・・・・
イナクナル
イナクナル・・・ノカ―――

そう、マリナもきっと


幸せな時間はいつも突然消えてしまう


音もなく突然に


それは何かの始まりなのか、それとも終わりなのか・・・・・


パートマリナ リンダ


あたしは―――全てを思い出した。
あたしはシャルルを愛してた、シャルルと結婚していた。
でも、今・・・・


あたしはミシェルも愛してしまった・・・


シャルルと同じ、ううん。あるいはそれ以上に―――
シャルルを―――
ミシェルを―――
・・・・・愛してる






運命の歯車が、あたしを巻き込み大きく回転し始めている。
記憶が戻ったからといって、時間まで戻るわけじゃない。
シャルルとの暖かい日々も、ミシェルと過ごした幸せな時間も、すべて本物。
なくせるものじゃない・・・なくしたくない。
すべてを思い出したからといって、ミシェルを憎めるわけがない。
こんなにも、こんなにも―――アイシテル
シャルルもミシェルも孤独な人だ、どちらか一人でも心からの理解者がいれば、あたしは選べるかもしれないのに・・・。
今のあたしにはシャルルの元へ帰ることも、このままミシェルの傍にいることも・・・


―――できない、できるわけないっ、どちらか一方と離れるなんて!


彼らのすべてを知って、それが平気で出来る人が居るだろうか―――彼らの暖かさに触れ、それを捨てることができようか!
光の中で育ち、光ゆえに孤独が強く照らし出されたシャルル。
闇しか知らず、人とも関わらずたった一人きりで生きてきたミシェル。
その二人の全てを知り、あたしはどちらも選べない。
たとえミシェルとの始まり方が少し人と違っていたとしても、今あたしは、ミシェルを想う。
その一方であたしの心は―――シャルルを求める。
ミシェルをこの腕に抱きながら、彫刻のように無表情で美しいミシェルから、体温が伝ってくる。
あたたかい、とても。
ミシェルの温もりであたしの心がだんだん冷静になっていく―――
シャルルはどうしてるだろう。
あたしを心配して、お仕事が手につかないんじゃないかしら・・・。
ご飯ちゃんと食べてるかな。
睡眠取ってるかな。
今、何してるのかな・・・
シャルルの事を考えてると、だんだん涙が溢れてきそうになって、腕に抱いたミシェルに気付かれたくなくて、あたしはもっと違う角度から、シャルルを思い出す事にした。
そう、シャルルは天才だったわ。
そうだっ―――
例えミシェルがシャルル以上のIQの持ち主でも、シャルルにあたしの居場所が分からない訳がない。
きっとシャルルはあたしがここにいることも、ミシェルと一緒であることも、全て知っているんだわ。
知っていて迎えに来ないんだ。
あたしにミシェルを託したんだわ。
ううん。
きっとシャルルはあたしの記憶がなかったことも知っているはず・・・だとしたら、


ミシェルに、あたしを託したんだ―――――


なんの為に・・・?
分からない。けどシャルルはいつも先を見ている―――未来を。
そして、あたしのことも、必ず考えてくれている。
きっと時間は、シャルルの見ているであろう未来に向かって、動き出したんだ。
その時が来れば、あたしから行かなくても、シャルルはきっとここに来る。
その時がいつなのか分からない。
でも、あたしは今この腕の中にいるミシェルを支えたい。


もう少し時間をちょうだい
シャルル・・・・
せめてミシェルが、またあたしに笑ってくれる日まで、
もう少しだけ――――


あたしはきっといなくなる。
二人を選べないから。

もしどちらかを選んでも、そっくりな人を見ていたら、忘れることなんて無理だから・・・。
きっといつか、後悔する日がくるだろうから。
どちらも好き。
ミシェルも、シャルルも。
でも、二人は決して交わることはない
だからきっと、あたしは―――


シャルルももしかしたら、分かっているのかも知れない。
シャルルの見た未来には、あたしはいなかったのかも知れない。
でも、シャルルには思い出がある、あたしとのたくさんの思い出が・・・。
シャルルはきっとそれらを抱きながら、生きていける。
でも、ミシェルは・・・
今この腕の中でまるで、死人のようになっているこの人は。
自信も心も全てを失ったミシェルは、あたしがいなくなったらどうなるんだろう・・・!?


あたしはミシェルを抱く腕に力を込めた。


心にミシェルを焼き付けるために。


ミシェルに、


あたしを、残すために・・・。






読んでくれてありがとう



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