パートミシェル&マリナ リンダ
朝食の並んだテーブルは見事で、焼きたてのクロワッサンにサラダ、ミシェルのいれた紅茶に、あたしの焼いた卵のプレート―――。
でもその中で、あたしの焼いた卵だけが異彩を放っていた。
「・・・マリナ、これは何だ?」
そう聞いてきたミシェルに、遠慮がちに答える。
「な、なにってプレーンオムレツよ・・・焼き始めた時までは」
語尾を小さく言って、あたしはミシェルのでかたを待った。
「マリナ、俺の知ってるオムレツってゆうのはラグビーボールのような形で、フワフワしてるんだけれど、お前のコレはオムレツと呼ぶにはあまりにも失礼だぞ」
呆れた顔であたしを見下ろすミシェルはいたずらっ子のようで、あたしは自分の料理を馬鹿にされたのも構わずに、少し嬉しくなってしまった。
呆れた顔であたしを見下ろすミシェルはいたずらっ子のようで、あたしは自分の料理を馬鹿にされたのも構わずに、少し嬉しくなってしまった。
だからもう少しふざけ合っていたくて、本当は料理を馬鹿にされた事なんてどうでもいいのに、あたしも怒ったふりをして言った。
「失礼ってなによっ!
さっきまでは上手く作れるような気がしたんだもの・・でも味は保障するわよ。味と量なら自信あるんだからっ。
それにオムレツってとっても難しいのよっ、ミシェルだって作ってみれば分かるわよ」
そんなあたしを更にからかうように、ミシェルは瞳に少し力を込めた。
それにオムレツってとっても難しいのよっ、ミシェルだって作ってみれば分かるわよ」
そんなあたしを更にからかうように、ミシェルは瞳に少し力を込めた。
「ふーん。分かった、じゃあ作ってみようか」
言ってミシェルはブラウスの腕のボタンを外し、肘まで腕まくりすると、卵2つを割りほぐし牛乳、塩・コショウを入れ、手早くかき混ぜフライパンに火を付けた。
温まったフライパンにバターを溶かし、卵を入れかき混ぜたかと思うと、実にいいリズムでトントンと、フライパンを握っている左の手首を右手で叩き出した。
温まったフライパンにバターを溶かし、卵を入れかき混ぜたかと思うと、実にいいリズムでトントンと、フライパンを握っている左の手首を右手で叩き出した。
その手つきは本当に鮮やかで、お見事っ! と大きな拍手をしてしまいそうになる程だった。
でも何よりも驚いたのは、そのリズムから作り出された、素晴らしいプレーンオムレツ。
ふんわりしていて、綺麗なラグビーボール型。
見るからに美味しそうで、あたしの作ったそれとは比べ物にならないくらいのものだった。
「・・・ミシェル、オムレツ作った事あるの?」
答えによっては、あたしの料理に対するささやかな自信も吹き飛ぶとは思ったけど、聞かずにはいられない、それはもう魔法のような一瞬の出来事だったんだものっ。
「いいや、初めて。オムレツを作ったのも、フライパンを握ったのもね」
うっ、完全に負けた。あー聞かなきゃ良かった。
あたしの今までの数々の料理を思い出してゾッとする。
こんな料理上手に作っていたなんて・・・・・あっ、でもちょっとまってよ。
だったらこれからはミシェルに作ってもらえばいいじゃない! そうよっそうだわ!
あたし料理は苦手だけど、食べるのは大得意だものっ。
あたしの今までの数々の料理を思い出してゾッとする。
こんな料理上手に作っていたなんて・・・・・あっ、でもちょっとまってよ。
だったらこれからはミシェルに作ってもらえばいいじゃない! そうよっそうだわ!
あたし料理は苦手だけど、食べるのは大得意だものっ。
その名案をミシェルに伝えると、呆気なく却下されてしまった。
それもヒドイ言い様で。
それもヒドイ言い様で。
「料理がこんなに簡単だとは思わなかったな。マリナ、これ位ならお前にも出来るだろ。
働かない奴には、ご飯は食べさせないよ。分かった?」
働かない奴には、ご飯は食べさせないよ。分かった?」
ご飯が食べられないのは嫌だわっ。
あたしは渋々引き下がり、テーブルについた。
あたしの前には不細工卵、ミシェルの前には見事なオムレツ。
いただきますをして、不細工卵に手をつけようとしたその時、ミシェルの手があたしのプレートに伸び、ミシェルのプレートと入れ替わった。
あたしは渋々引き下がり、テーブルについた。
あたしの前には不細工卵、ミシェルの前には見事なオムレツ。
いただきますをして、不細工卵に手をつけようとしたその時、ミシェルの手があたしのプレートに伸び、ミシェルのプレートと入れ替わった。
「えっ・・・どうしたの!?」
「―――自分が作ったものを、自分で食べて嬉しい訳ないだろ。
それに美味しいものを作ってもらいたければ、美味しいものを食べさせなきゃ料理の腕も上がらない。
さ、どうぞ召し上がれ、マリナちゃん」
からかうようにミシェルは言ったけれど、あたしにはミシェルがあたしに優しくしてくれているのが分かった。
不器用でひねくれていて、心の奥がくすぐられているみたいな、そんな優しさ。
普段でも食事の時間はあたしの一日の中でも一番楽しく、幸せな時間なのだけれど、今日のこの時間は、いつもの何十倍も素敵だった。
そんな幸せをかみ締めながら食べるミシェルの作ったオムレツも、ミシェルがいれてくれた紅茶も格別で、あたしのお腹はクロワッサンを何個食べても、紅茶を何杯飲んでも、一向に満腹にならなかった。
そんな幸せをかみ締めながら食べるミシェルの作ったオムレツも、ミシェルがいれてくれた紅茶も格別で、あたしのお腹はクロワッサンを何個食べても、紅茶を何杯飲んでも、一向に満腹にならなかった。
おかしいわね、世の中じゃ幸せだとそれだけでお腹一杯っていうのに・・・。
あたしの胃袋は、ちゃんと口からいれたモノじゃないと満たされないのね。
あたしの胃袋は、ちゃんと口からいれたモノじゃないと満たされないのね。
おかげであたしは悪いなぁと思いながらも、食事中何回もミシェルに席を立たせてしまい、いい加減怒られるだろうと、恐る恐る4杯目をお願いすると・・・
「マリナそんなに美味しいかい、熱いから気を付けるんだよ」
と、お代わりをお願いする度、まるでお母さんのように同じセリフを口にした。
その度、ミシェルの笑顔は暖かく穏やかで・・・
でも、瞳は笑っているんだけれど奥のもっと奥の方に何か―――
見逃しちゃいそうなほど小さな霞がかった影があって、あたしは少し不安を覚えずに要られなかった。
あたしがお代わりを頼み過ぎたからかしら?
「ほらマリナ落ち着いて食べて、ケチャップがくちの周りについてる。
ああほら、クロワッサンのくずがボロボロ落ちてる・・・・・」
「だって、美味しくて美味しくて、いくら食べてもお腹が一杯にならないんだものっ」
「ゆっくり食べたって大丈夫。僕はクロワッサンは2個って決まってるから、ほら残りは全部君のだよ」
そんな会話を繰り返してるうちに、さっきまでのミシェルへの不安は気のせいとして、あたしは処理してしまった。
笑いのある食卓、そんな普通の幸せが嬉しくて―――――
あたしが7杯目の紅茶をお代わりした時、その都度繰り返されてきたミシェルの言葉はなく、そのかわりにさっきまでの紅茶とは違う甘い香りが口の中に広がり、急に眠気が襲ってきた。
少しずつ薄れてゆく意識の中ミシェルを見ると、ミシェルは何故かとても幸せそうで、
あたしが7杯目の紅茶をお代わりした時、その都度繰り返されてきたミシェルの言葉はなく、そのかわりにさっきまでの紅茶とは違う甘い香りが口の中に広がり、急に眠気が襲ってきた。
少しずつ薄れてゆく意識の中ミシェルを見ると、ミシェルは何故かとても幸せそうで、
優しい顔をしながら・・・泣いていた。
「な、ん、で・・・・」
やっとのことであたしが言うと、ミシェルはそっと語りはじめた。
それはあたしに言っているのか、それとも独り言なのか分からない程、静かな口調だった。
「マリナありがとう。 もういいよ、もう十分だよ。
「マリナありがとう。 もういいよ、もう十分だよ。
そしてごめん、今までたくさん君を傷付けて。
―――――僕は君が欲しかった、ものすごく。
最初は単純にシャルルを困らせたかった。いや、傷付けズタズタにしてやりたかった。何より、アルディに復讐したかった。
しかしアルディ家に取り付けたカメラで君達を監視してるうちに、シャルルにあんな顔をさせる君に興味がわいた。
しかしアルディ家に取り付けたカメラで君達を監視してるうちに、シャルルにあんな顔をさせる君に興味がわいた。
多分ずっと僕が望んでいたものを君は持っていたんだね。
・・・君と話したくなった。
君に触れたくなった。全てを君でいっぱいにしたくなった。
・・・君と話したくなった。
君に触れたくなった。全てを君でいっぱいにしたくなった。
間違っている事は分かっていた。でもやらずにはいられなかった。
君の寝室に入ったあの日、君に飲ませたのは、全てを忘れる薬だったのさ。
誰が飲んでも一口口にすれば、二度と思い出す事のない、僕の作った紛れもない・・・媚薬さ。
誰が飲んでも一口口にすれば、二度と思い出す事のない、僕の作った紛れもない・・・媚薬さ。
でも、君は思い出した。そして全てを思い出したのに、僕を責めなかった。
――――負けたと思った。生まれて初めて心から。
もうこれ以上は続けられない。
そして恨んだよ。
シャルルと同じ顔の自分を、あいつより先にきみに出会わなかった自分の運命を・・・
そして恨んだよ。
シャルルと同じ顔の自分を、あいつより先にきみに出会わなかった自分の運命を・・・
でもそれももう終わりにしよう。
君と過ごした日々はとても幸せだった、自分には一生無縁だと思っていたものを手にしたよ。
君と過ごした日々はとても幸せだった、自分には一生無縁だと思っていたものを手にしたよ。
・・・それに、僕には君との日々は幸せ過ぎた。暖か過ぎた。そして何より―――眩し過ぎた。
だからもう、シャルルの元へお帰り。
僕も帰るよ、生まれたままの自分に。
そしてもし、また目覚めたならば、僕は君になろう。だれかのための君になりたい。
―――ありがとう
君の紅茶に、あの日と同じ薬を入れたよ。
君は全部忘れる。
ここでの日々も、僕のことも、シャルルのことも、そして自分のことさえもね。
ここでの日々も、僕のことも、シャルルのことも、そして自分のことさえもね。
僕からシャルルに最後の挑戦だ。
彼は君に思い出してもらうことができるかな。
おやすみマリナ。
いい夢を――――」
彼は君に思い出してもらうことができるかな。
おやすみマリナ。
いい夢を――――」
そう言うとミシェルは、あたしの横に座り、優しく瞼にキスをした。
どんどん薄れていく意識を、あたしは必死で手繰りながら、目一杯の声を振り絞って言った。
「あ・・たし思・・・い出すか・・ら、ミシェ・・・ルを・・す――だから・・きっと・・・お・もい・・・だ・・す」
最後の方は声になっているのかいないのか、自分にも分からなかった。
ミシェルにあたしの言葉が届いただろうか・・・。
ミシェルは優しく天使のように微笑んだ。
その微笑があまりにもキレイで―――ああ、これで最後なんだなぁって分かった。
でも、あたしの瞳に映るミシェルが、こんなにキレイで良かった
でも、あたしの瞳に映るミシェルが、こんなにキレイで良かった
あたしがあたしでいる最後の風景に、ミシェルが映って良かったと―――――
ねぇミシェル。
ねぇミシェル。
あたしとの日々、楽しかった?
あたしはあんたに、幸せをあげられた?
あたしはあんたに、幸せをあげられた?
忘れないでね、ミシェル
あたしきっと思い出すから、もう一度あんたと出会って・・・
一緒に買い物したり
ご飯を食べたり・・・
また紅茶いれてね
お昼寝も一緒にして
あんたは恥ずかしがってたけど膝枕だってしてあげる
今度はあたしが星の王子様読んであげるね
また光のアーチ、一緒に見ようね
ご飯を食べたり・・・
また紅茶いれてね
お昼寝も一緒にして
あんたは恥ずかしがってたけど膝枕だってしてあげる
今度はあたしが星の王子様読んであげるね
また光のアーチ、一緒に見ようね
もっと優しくしてあげればよかった・・・
ゴメンね素直じゃなくて
でもあたしミシェルと出会えて良かった
本当に―――良かった
最後は笑わなくちゃ・・・もうろうとしてる意識が長く持たない事を教える。
―――笑わなくちゃ
あたしは一生懸命に笑ってるのに涙が勝手に出てきちゃう
やだ、あたし上手く笑えない・・・
ううん違う――あたし忘れたくない
ミシェルと一緒に、ずっとずーーっと一緒にいたい・・・・・・いたいよ!
ミシェルはあたしの体を引き寄せ、あたしの涙を親指で優しく拭うと、小ビンに入っていた、真珠色の何かを飲んだ。
真珠色の―――全てを無にかえす、媚薬を。
ミシェルはあたしの体を引き寄せ、あたしの涙を親指で優しく拭うと、小ビンに入っていた、真珠色の何かを飲んだ。
真珠色の―――全てを無にかえす、媚薬を。
To be continued・・・
光編、お楽しみいただけましたか?^^
さてさて、この作品は参加自由形の散文的創作ということをお断りしておきましたが…
この続編に投稿してくれる方、いつでも募集しております(笑)
下のコメント欄でも、ぷるにメールでも、どんな形でもどんな長さでも、思うままに綴っていただいてかまいません^^
いつでもカモンなので、どうぞ遠慮なさらず~~~w
光編、お楽しみいただけましたか?^^
さてさて、この作品は参加自由形の散文的創作ということをお断りしておきましたが…
この続編に投稿してくれる方、いつでも募集しております(笑)
下のコメント欄でも、ぷるにメールでも、どんな形でもどんな長さでも、思うままに綴っていただいてかまいません^^
いつでもカモンなので、どうぞ遠慮なさらず~~~w
読んでくれてありがとう
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