2011/05/26

ミシェルお誕生日スペシャル




ミシェル・ドゥ・アルディ お誕生日スペシャル 
~ポルトオシエル番外編



Written by コジカ






二月に入って寒さも厳しい冬の夕刻時。



なぜか窓を全開に開け放った、寒さ吹きすさぶリビングに、疲れ切った仏頂面の男と・・・マリナがいた。
マリナがちょっと目を放した隙に燃え上がった鍋のおかげで、あやうく火事になるところを、ちょうど外出から帰ってきたミシェルが発見して、バタバタと後始末に追われていたのだ。
立ち込めるつんとした焦げ臭いにおいと、もうもうと霧がかかったように残る白い煙の中。
二人は終始無言で目の前のドロドロの焦げた、何の料理かまるで見当が付かない皿の中を掻き混ぜていた。

「あ、あのぅ~ミシェル君…? お、怒ってるかな~なんて。アハ・・アハハハ・・?」
「・・・・・。」
「ちょ、ちょっと焦げ臭いけど、どうかな~?。。。」
「・・・マズイ。」
「そ、そうなの、今日は新しいメニューに挑戦しようと思ったんだけど・・・ちょーっと失敗しちゃったわね。
お、おかしいわ、ホント。書いてある通りにしたのに最後の最後で・・・ねぇ? 
いや~惜しい惜し・・・」
「…このゲロのようなブツの一体どこが惜しいって!?」
「ゲロって! ・・・そ、そんなひど」

するとミシェルはおもむろに、目の前の皿から生煮えのニンジンをナイフで突き刺した。

「それに、どこが最後の最後でだ。
見ろ! この生野菜は、既にお前が鼻っから煮る順番を間違えていた証拠さ。
ったく、鍋はあんな派手に焦げてるのに中身は生煮えなんて、じゃなきゃありえないだろう? え、マリナちゃん」
「うっ、エ、エヘへ・・・バ、バレテタ?・・・」
「お前のその、でかいだけの空っぽ頭で僕を騙そうなんて、一億光年早いんだよ。これに懲りたら、わざわざ高度なディナーをなんて、金輪際考えないで、おとなしく教えてやった物だけ作っとけ。
大体、魚なんてただ塩振って焼きゃーいいんだ、焼きゃー。
そうさ、ただ、素直に、焼くだけで!!
簡単だろう? いいか、わかったな? よく覚えとけよ!?」
「そ、そこまで言わなくても・・・わかってるわよ。
でも、あ、あたしだって練習すれば、きっともっと上手く作れるようになるんだからっ」

まだ懲りてないだろうマリナに、イライラと疑い深くその青灰の瞳を光らせると、無言でガタっと席を立ち、雪混じりの風が入り込んでくる窓辺に寄って、それをバタンと閉める。
そして腕を組んで振り返ると、眉を吊り上げて憤慨するマリナを皮肉交じりの笑みで睨み、コンッと窓ガラスを叩く。

「へーそうなんだ。
じゃ、なんでなのかなぁ? ここのところ一週間も、ブリザードが吹きすさぶナイスな部屋で、手の込んだマズイディナーを食わされてる訳はさぁ。
いっつも部屋ん中じゅう焦げ臭いし、煙って向こうが見えないし、なんか皿の割れる音してるし。ここでおちおち仕事も出来ないよねぇ。
おまけに今日は危うく火事になるところだったし? 
なんか、変じゃない? お前のその最近の、いつも以上の奇行ぶりの訳を、是非ともお聞きかせ願いたいねぇ」
「きょ、今日は本当に・・・ご、ごめんなさい。
だ、だけど、・・・・あたしがこの前、あんたの誕生日知らなかったから聞いたらさ、あんたサラッと一週間前の25日だったかも、なんて言ってたじゃない? 
・・・何にも言ってくれないから・・・だから、せめてあたしがおいしい物でもとか思って・・・でも、失敗し続けてたからとても言えなくて・・・それで・・・」

焦げ臭さの残る中、マリナは自分の情けなさに俯き思わず涙ぐんだ。

「・・・ふ~ん。なるほどねぇ、それで今日の火事騒ぎに至るってわけ。
ったく、つくづくお前の考えそうな事だよ。だけど、もうこんなプレゼントは沢山だから、そんな殊勝な考えはきっぱりさっぱりあきらめてくれ。帰ってきたら火事で家が無かったなんて、勘弁してほしいからねぇ。お前がどうしても焼け死にたいってんなら話は別だけど?」
「ご、ごめんなさぃ・・・っく」
「泣くほどのもんかよ。
誕生日なんてどうでもいいだろう? ただ生まれた日ってだけで、なんでそんなに騒がなくちゃならないのか、全く分からないよ。とにかく、もうこんな事はやめてくれ。わかったな?」
「で、でも・・・!」
「どうでもいいけど、いい加減腹減ったんだけど? ここはもういいから。どっかにレトルトがあったろ? 今すぐ温めてもって来い。」
「う、うん。・・・そうだね、お腹すいたよね。」









「はぁ~。このレトルトカレーいつも、どう作ってもおいしいわね~、さすがインスタントは研究されつくしてるわぁ。
ねーミシェル、あんたもそう思うでしょ? ああ、おいしいもの食べるって幸せだわ~♪」
「・・・ったく、インスタントぐらいで感動してんじゃないよ。わかってるんなら初めからこうしとけ。・・・」
「・・・え? 何か言った!? 
・・・あっ!! それはそうと、今日あんたがいない時にケーキ焼いておいたんだった!!
そっちはすっごくいい出来なの。あたしとしたことが、うっかり火事騒ぎで存在忘れてたわ! ちょっと待ってよ、今切るから。あんた絶対びっくりするわよ、ふふふ。」
「・・・・・。」

・・・違う意味でビックリさせられるんじゃねぇだろうなー? ・・・と疑いを隠せないミシェルがいた・・・

「見て見てー、どうよ。上手く出来てるでしょう?」
「・・・まあ、さっきよりは幾分見れなくもないかねぇ。このつづりが間違っているのを別としても」
「ええ!? 嘘ッ。本当?
・・・へへ、あ、あたし英語はちょっと苦手だったのよ昔から。なんたって生粋の日本人だし、必要に迫られることも無かったし。で、でも、学生時代だけど最高68点もとったことあるんだから・・・一度だけだけど・・・。あの時がピークだったわね。
人間どんどん忘れてくものよねぇ。うっかりしちゃったわ、えへへ。」
「・・・へぇ、それはそれは。僕はてっきり」
「あわわ、ね、ねぇ! はやく切りましょうよっ。
はいっ、どうぞ遅ればせながら誕生日おめでとう!!
遠慮せずいっぱい食べてね。まだまだこんなにあるんだから、おかわりありよ、ふふ。」
「それはどうも。じゃ、お言葉に甘えて

・・・・・・・・・うっ」

「う!? またまたぁ~、美味しすぎて言葉の出ないんでしょう? どう? どう? あたしの自信作は!?」
「・・・カライ。」
「カライ・・・って? これ一応ケーキなんだけど、・・・あんた形容間違ってない? 
生クリームたっぷりのショートケーキが何でカライのよっ。失礼よ、あたしとケーキに対して! もっとよく味わってよぅ」
「お・・・お前・・・砂糖と塩間違えたな。ここの所間違えずに来たから安心してたのが仇になったね。」
「そ、そんなはずは・・・どれどれ。・・・うっ」
「・・・・・・・。」





「―――この鍋も、もう使い物になんねーな。
一体いくつ目なんだろうねぇ。いい加減この記録、ストップしてくれないものかねぇ。
それに、毎回食器棚が寂しくなっていく気がするのは、僕の気のせいかな。一体どこに、皆消えてってるんだろ。
ほんと、我が家の怪奇現象だよねぇ。」

散々な夕食も終わり、白金の光をまとった男が、ぶつぶつ皮肉をつぶやきながら皿を片付けている。
ソファーに突っ伏して泣きつかれたマリナは、そのままフテ寝を決め込んだ。

「おいコラ、そこのタヌキ。いつまでそこでスネてんだ、とっとと風呂入れ。
大体泣きたいのはこっちだろう? 図々しいぞ。
疲れて帰ってきて消火作業から始まって、とんだお前の自信作食わされるわ、その挙句皿洗いの片付けまで一人でやらされてるんだからな。
そこで寝て風邪ひいて、これ以上迷惑掛けさせんなよ。
ほら、ここは済んだから早く行け。」
「・・・うっく、ゴメン。も、もう今日は返す言葉も、な、無いわよ・・・っく。アリガト・・・あたし・・・もう寝るから。・・・じゃね、オヤスミ・・・」

ヨロヨロと、くしゃくしゃ頭のまま脇をすれ違って上の階に上がっていこうとするマリナの腕を、ミシェルは慌てて掴んだ。

「ちょっと待て。お前、また風呂入らない気か・・・!?
・・・黙ってみてりゃ一体何日目だよ、おい、いい加減臭うぞ? 
今夜こそはそのススケタ面を洗って来い。じゃ無ければ寝かせないぞ、布団が汚れるっ。
ほんとにお前それで一応女だとかいって、許されると思ってんのか? それとも、本気でタヌキだったのか!?」
「ちょ、ちょっと何よ、タヌキタヌキって!! レディーに向って、そうよ、そもそも愛する妻に向ってその言い草は、いくらなんでも無いでしょう? あやまんなさいよ」
「嫌だね。本当のことを言ってなにが悪い? それに、Aカップ以下の風呂嫌いタヌキ女に、レディーとか言われたくないね。全然笑えないぞ、マリナ。」
「うっ、うるさいわね。本当のことはねえ、時に人を傷つけんのよ!! それにあたしは、何もあんたの笑いとるために、何日もお風呂入ってないわけじゃないんだからっ、離してよぉ!」
「じゃ、一体なんだってんだよ。
ちゃんと僕が納得する言い訳を言わなかったら、このまま引きずってくからな。」
「げっ。わ、わかったから、大丈夫だからっ、一人でちゃんと入れるから」
「誤魔化すんじゃないっ!」
「うっ、あ、あの・・・ね。お、怒らないでね。
・・・じ、実はなんだか最近急に太ったせいか、何かお風呂入るのだるくってだるくって・・・吐き気とかするし・・・そ、それでつい、めんどうくさくなっちゃっただけ。
た、ただそれだけだから。そう、全然それだけよ、あはは」
「・・・・へ~そうだったんだ。
最近のいつにも増したカラスの行水っぷりは、そういうわけか。
お前髪伸びたからなぁ、それ洗うだけでも相当疲れるってわけだ。ふ~ん、なるほど。やっと納得」
「ふん。そうよ、あたしだって好きで不潔女してる訳じゃないのよ。わかった!?」
「・・・OK。何か風呂はいらない理由としては、半分以上疑わしいけど。
そうだよねぇ、今まで誤解していて悪かったね。じゃ、お詫びに『愛する妻』のそのボサボサライオン頭ぐらいは、洗って差しあげなきゃぁねぇ。どうせ洗い物ついでだしさぁ。
それなら楽に風呂嫌いも治るってもんだろ、ねぇ、マリナちゃん?」

グンと意地悪そうな微笑を浮かべた端正な顔が、目の前に近づいてきたかと思うと、一気に抱え上げられた。

「ひ、ひぃぃぃぃ~~~~ちょ、ちょっと!! 
話したら離してくれるって約束でしょう? お、降ろせ、コラ。ミシェルっ」










ミシェルは腕の中でわめくマリナを無視して、さっさと脱衣所まで運ぶとマリナをそこへ降ろし、鍵をすると手早く自分の着ている服を脱ぎだした。
それを呆然と見ていたがやっと、ハッとしてマリナは真っ赤になると、慌ててくるっと後ろを向いて、その場にしゃがみこんだ。

「じょ、冗談でしょう? あたし、入んないから! こ、こんなに明るい所で、絶対やだから。」
「ばーか。何を今更言ってんだ。お前が恥ずかしがるほどの玉かよ。何もしやしないよ、ただ頭洗うだけだろ? 脱がされたくなかったらさっさと来いよ。色気0のマリナちゃん?」

残酷な一言を残して、先にマリナの後ろを通って風呂場へ入って行ってしまった。

「ど、どうしよう、どうしようぅ。あんな明るい所に行ったら、絶対笑い殺されるに決まってるよぅ。さ、さっきだってAカップ以下がどうとか何とか言ってたし・・・あ、あたしここんところ、中年太りみたいに太ってきてるし、いくらなんでも、こ、こわすぎるぅぅぅ~。」
「おい、いつまでそこにへばってるんだ。早くしないとこっちから行くぞ。あきらめろ、もたもたすんなー」
「ひぇぇ~、い、いくから。わ、わかったから。あんた、そこで絶対後ろ向いてなさいよ!」

ミシャルにこっちまでこられるよりはまだましよ。そ、そうよあたしたち夫婦だし、こんなこと前にもあったかもだし。
意を決して立ち上がったマリナは、目の前の鏡を見て愕然とした。

「へ・・? このススケタ野生児はどちらさま・・・? 
か、髪だってべとべとでライオンみたいにぐしゃぐしゃだし。あ、あたしってやっぱり最低ーかも・・・。
今度こそ離婚されるわ。絶対・・・ほんとにこれじゃー色気0・・・」

情けなさで殆ど抜け殻状態のまま、俯きながらマリナは、そっと風呂場のドアを開けて中に入った。
途端、バスタブの方から何か観察するような鋭い視線を感じた。
(こいつ、だいぶ腹で出て来たな。・・・)

「ちょ、ちょっと、何見てんのよ!! 向こう向いててって言ったでしょう!? ・・・あ、あんまり見ないでよぅ。」

真っ赤になって俯く泣きそうなマリナに、ため息を付いた。

「お前みたいな幼児体型、今更見たって減るもんじゃないだろうが。ったく、いつまでたっても。いい加減照れんのやめれば?」
「ど、どうせあたしはAカップ以下よ・・・でも、あたしだって好きでやってる訳じゃないもん。そんな女の子選んだのは、あんたなんだからね! いくらあたしだって、ガキだガキだって言われ続けりゃ、傷つくんだから。」
「よく分かってんじゃん。そのうえボサボサ頭した、ススケタガキだってことも忘れんなよ。
ほら、ぶつぶつ言ってないでさっさとここに座れ、洗うから」

ミシェルは、悔し涙を浮かべてうなだれるマリナの腕を引っ張り座らせると、風呂の中の湯をたっぷりその頭の上にかぶせた。

「ぶふっ・・・っふ。ちょ、ちょっといきなりなの!? ちったー思いやりを持って・・・ぶふっ」
「うるさい、何が思いやりだ。そんなもの、このタヌキ女にゃーいらねぇんだよ。こんなべとべとした髪しやがって、少しおとなしくしてろ。」

あれよあれよと言う間に石鹸をつけられて、長くて繊細な指でシャカシャカと泡立てられる。

「ひえ~、びっくり。すごい上手だねぇ。
あんた絶対いい美容師さんになれるわよ。この前だってさ、自分で自分の髪切ってたし。しかもサバイバルナイフで。」
「僕はお前と違って何するにしても器用なんだ。
お前も髪切っとくか? これ邪魔じゃないか? どうせ手入れなんてしないんだし。」
「えっ!? やっぱりナイフで・・・だよね。な、何か怖いんだけど。」
「当たり前だろ? 大丈夫、僕は上手いよ?」
「うっ・・・。じゃ、じゃーこ、今度お願いします。」
「信用してねぇな・・・? ホラ、一回流すから目をつぶっとけ。」
「あ、う、うん。いいよー。・・・ね、ねぇ、やっぱり、あたしたちってさ、前にもこういう風に一緒にお風呂はいることあったの?」
「・・・・そうだな・・・あったかもな。いや、絶対あったな。」
(こいつのドジさで、コイツの馬鹿さで、あいつが乱入してない訳無いよな・・・)
「ええっ、覚えてない訳ぇ~?」

なんだか面白くなく、急に不機嫌になってきたミシェルに、こんどはガシガシ力任せに頭を洗われて、マリナの苦情が飛ぶ。

「ちょ、い、痛い!! 
さっきの美容師さんぶりはどこ行ったのよ! イテテテ。ちょっとミシェル!?」
「よし、こんなもんだろうね。次は身体だけどいかが致します? マダム?」
「え!? ヤダ! いい、自分で出来るから!!」
「そう? せっかくだから背中だけでも流してやるよ? どうせ万年洗わずじまいだろうからな。」
「うっ。そ、そうね。じゃ、せ、背中だけ」
「お前、顔も洗えよ。」
「う、うん。洗うわよ。当たり前でしょう? 
でもその前に、あたしにもあんたの背中流させて。お礼に」
「いや、僕はいいよ。マリナがもたもたしている間にさっき洗ったから。」
「でも! 背中流すぐらいさせてよ。ね、ね?」
「・・・。」
「ホラ、後ろ向いた。
ひゃー、いつも思ってたけど、ほんっとあんたって奇麗な肌してるわねぇ。女装したらその辺の女の子より絶対奇麗だわぁ、きっと。
キャーー、見てみた過ぎるぅ。その暁には是非スケッチさせてね!」
「絶対、誰が、女装なんかするかよ。」
「まあまあ、そういわずに。約束ねっ。」
「調子に乗るな。」

冗談を言い合いながら、ひととおり洗い終わって、湯船につかりながらマリナはとても幸せを感じた。

「ねえ、・・・あんたって変わったわね。
最初あたしが記憶失いたての頃って、まるで悪夢かって思うほど最悪な奴だったけど。
こうしてとなりで、穏やかな温かい気持ちでいられるようになるなんて・・・なんだかまだ、嘘みたいよ。信じられない。・・・」
「ふん。お前のドジぶりにこっちが慣らされたんだろうね、無理矢理。」
「なっ、ドジは余計でしょう? でも、あんたとても優しくなったわ。ふふ、なんか今日なんて不気味なくらいだもの。
そうね、・・・あたしが街で倒れた時ぐらいからかしら。急に優しくなり出したの。
なんで? 何かあったの?」
「・・・別に。お前が勝手にそう思ってるだけだろう。勘違いするなよ、優しいと思うならそれはお前の幻想だからな。
・・・お前はあんなに、僕を嫌っていただろう?」
「ふふ、そうね。ホントはじめは、何であたしってこんな人と結婚してたのか、全然理解できないかったもの。あたし達全然合わないのにって。
でも、やっぱりそれはあたしの思い違いってわかったもの。
やっぱりこの人と、ずっと一緒に生きていきたいから結婚したんだって。
ちゃんと選んでこうなったんだって。だから・・・」

その時、少し切って短くなった白金の髪に隠れて、きつく目を瞑って黙っていたミシェルは、カッと目を見開くと振り向いた。

「やめろッ、それ以上言うな。」
「えっ・・・?」

突然の激情に驚いたマリナは、ポカンと白金の乱反射を受けて揺れる、美しく淡いブルーグレーの目をただ見つめた。
何・・・?
何がそんなにあんたに、そんな切れるように孤独で、暗く悲しい目をさせる・・・の?
ミシェルもそんなマリナの顔を見てハッとすると、次第に眼光を抑え、いつもの皮肉めいた光に変えると、マリナが口を開くよりも早く遮った。

「いや、そういうセリフはせめて、せめてAカップになってから言ってほし・・・イテ、何すんだこの暴力女」
「なによ、なによっこの、エロミシェル! バカミシェル! アホミシェル!
ひどいよ、もうあたしが成長しないだろうこと見込んで、そういう意地悪なことばっかり言うんだから! あたしイジメテそんなに楽しい!?」
「ああ、楽しいねぇ。もっともっといじめてやりたいさ、飽きるほどね」
「な、な、楽しい!? 楽しいですって?!
よくも言ったわね! お、覚えてらっしゃい!! いつか必ずAでもBでもなって、あんたをひざまづかせて見せるんだから、そのとき後悔したって遅いわよ。」
「・・・それは一生無理なんじゃない?」

キィキィと唸っていたマリナだったが、一本一本がまるで本当の白金で出来ているような髪の間から、宝石のような瞳で見つめられ、そいつに悠然と微笑まれては、がっくりと肩を落とすしかなかった。

「・・・負けたわ・・・」
「あれ? 柄にも無くしおらしいじゃない。いつもの、すっぽんのごときしつこさはどうしたのさ。」
「何か、あんた見てるとキレイになって云々とか言ってるのが、馬鹿馬鹿しく思えるもの。
もういい、なんとでも言えばいいわ、ほっといてよ。」
「なんだよ。益々お前が自堕落になってくのは、気力の問題か?
だめだぞ、そんなことじゃ女失格になるのはもうすぐそこだぞ。
・・・それに、胸ぐらい何とでもなるだろう? そんなもんすぐ大きくなるさ」
「・・・へ? う、うそ。気休め言ってんじゃないでしょうね!?」
「いんやマジマジ。多分だけど最低B上手くすりゃーCくらいにはなるんじゃないか?」
「ええっ、ほ、ほんとう!? い、いつ!? それっていつよ!?」
「さあ? そのうちすぐじゃない?」
「―――あ、あんた、あんたまたあたしをからかったわね!?
あたしで遊んでるんでしょ?!  許せない、悔しい。悔しいよぅ」

そういって泣きに入ったマリナの顔に、ミシェルはお湯を引っ掛けて風呂場から出た。

「おい、そろそろ出るぞ。お前も大概にして出とけよ。
間違っても、またゆでマリナなんかになって、世話掛けさせんなよ。いいか? お前、いい加減にしとけよ。」

(ったく、まだわめいてやがる、懲りないやつだねぇ。
すぐなんでも本気にしてさ。胸なんてどうだっていいのに、こだわるねぇ。
それに、でかくするなんて簡単じゃないかよ、とりあえず女だったら普通気付かないか?

―――そうさ、僕の子を産めばいいんだよ、マリナ? もう少ししたら、ね――――)








その夜、どんなに中年太りしても楽勝な服買ってきたからと、ミシェルに言われて渡された服を着たマリナは、そのサイズに愕然とした。

「見、見たわねー見てたわねー!! さっきいやにじろじろ見てるから、変だと思ったけど。
やっぱりあたしの中年太り見て、笑ってたんでしょう?」
「なんのこと?」
「とぼける気? いいわ、そっちがそおいう態度なら、またこっそりあんたの服きてやるから!! 一番お気に入りをね! 座高は大体おんなじだから、あたしだって着れるんだから・・・って、いつも着てるけど。」
「お前・・・それ自分で言ってて虚しくないか?
アハハハハハ!! そうだよな、座高一緒だもんな。え? 短足マリナちゃん? ハハハ、だけどズボンの丈は勝手に切るなよ、アハハハ!!」
「・・・切ってやるっ、絶対切ってやる・・・。」

ミシェルはわなわな震えるマリナの肩をすばやく抱きこむと、ドアップで俯いた顔を見つめて、魅惑的に瞳を輝かせた。

「まぁ、そういうなよ。その座高のおかげで、服に困らずにすんだんだろう? 少なくとも上着だけはさぁ。
これって、ラッキーなことさ。僕もそんな素敵な伴侶に恵まれたってね?
なんせ服まで共有し合えるんだからさ。いやー、ラッキーラッキー。随分それで助かったってわけさ。
それに、ほら見ろよ。このたっぷりしたワンピースをさ! これならウエストをまるで締め付けないだろぅ?
僕がこれを買ってきたってことはつまり、お前がどんなに食っても、何も言わないぞってことだぜ?
わからなかったの?」
「えっ!? ほ、本当? いっぱい食べても、たとえば食料庫を空にしても、怒らない・・・?」
「本当本当。怒るわけ無いだろう? 上手いものを沢山食って何が悪いんだよ。なぁ?」
「う、嘘、嬉しすぎる。やっぱり、この服って最高だったのね。
ありがとうミシェル、やっぱりあんた、優しいわ。」
「どういたしまして。『愛する妻』のためなんだから当然だろう?
―――ただし、お前がもし上手い食事を作れたらの、話だけどねぇ。
と、いうわけだから。じゃ、オヤスミ」


「・・・や、優しくないぃぃぃ~~~~~!」

(・・・バーカ、いい加減気付けば・・・?)





―――まだまだ、オシエル気の無いミシェル君でしたとさ。






―――おしまい―――








いや~~>< しまったしまった!!

オシエルが佳境に入る前に投稿しようと思ってたのに、ウッカリしておりました!ギャボン

こんな思い出もっ、こんなオモイデも~~><あったのですよ…! 彼らには…(クスン)



この作品は、前LPDの『真夜中のカフェ』の素敵なギャルソンであるコジカちゃんが、溢れる愛の力で(笑)カキコしてくれた、ミシェル君お誕生日記念の創作です。
これによってかなりのお嬢様が、ミシェルくんの魅力(色気?・笑)にやられたことは明白ですが、いやはやぷるもその一人というのは、この際ナイショにしてください(笑)


ご存知ポルトオシエルの番外編であるこのストーリーは、夫であるミシェルのお誕生日を、なんとか祝ってあげたいマリナちゃんの真心から、始まります。
気持ちは空回りするばかりで、一向に上手くいかないプレゼントの数々・・・。
別にそれを慰めようともしないミシェルくん(笑)
でもそのそっけなさが、かえって彼を優しく見せるから、なんだか不思議です(*^^*)
続いてのバスシーン(!)では、仲良く背中の洗いっこなんかしちゃって、くぅぅぅ~・・・ツボつきまくりです、コジカちゃん! もうこの辺はニヤケてしまって、読むのもタイヘンでした(笑)
それにしても、マリナちゃんのお腹の中で育っていく命を、彼はその実どういう気持ちで見ていたんでしょうねぇ。やっぱりナゾの多い人です、ミシェル・ドゥ・アルディ。
ススけたマリナも可愛かったです、フフ♪
でも実際妊娠中、風呂はいるのは難儀なんですよ。だる~いし、世界がグラグラするカンジになるんです。ま、症状は人それぞれですがね、入ってリラックスする人もいるし。
原因がわからないんじゃ、不安にもなるよねぇマリナちゃん?(気づかない君も君だが・笑)


この後、マリナちゃんはたっぷりのワンピースを着て、ミシェルは胃薬かなんか飲んで(笑)二人はヌクヌクと眠ったのでしょう(^^) なんとなーくコゲ臭い部屋の中で。
彼の人生の中で、それでもこんなにあったかいバースデーはなかったんじゃないかなぁ。
きっと照れ隠しながらも、おやすみのキスは甘いものだったハズ!!(笑)


コジカちゃん、いつもステキな夢を与えてくれて、ありがとう!
最高のお誕生日プレゼントだったと思いますわ! 
遅れながら、ミシェルくん、お誕生日おめでとう。
あなたも含め、皆が幸せになれれば、いいのにね。










読んでくれてありがとう




2 件のコメント:

ともん さんのコメント...

>そうさ、ぼくの子を産めば良いんだよ。
に、がっつ~ん!!とやられました(もう、メロメロです)

ミシェル、悪辣な言葉ならべているのに、なして、こんなにらぶらぶにみえるんでしょうか。もはや、どつき夫婦漫才見てるようで、おもしろかったです^^。ともん、こおゆうノリ大好きです^^

それにしても、オシエルミシェル、良いですね~^^
シャルルと同じ顔で、ヤガル弁^^。
はじめとっても新鮮でしたが^^もうすっかり馴染みました^^(ミシェルって書き手様次第でいろんな魅力出す^^素晴らしいキャラですよね)ニューミシェル!!作ってくれてぷるぷるさんコジカ様感謝感謝です。

ps ライオンマリナちゃんに、笑いました^^

ぷるぷる さんのコメント...

ワヒャヒャヒャw ともんさん~お体だいじょぶですか~??^^
こぉんなの見てたら///お腹にさわるのでわ…v
うひゃーん、今更ですがミシェルのお誕生日お祝いエピでした~(笑)コジカちゃーんUP遅れてごみーん^^;
がっつ~んとヤラレテ(笑)めろってくれて、嬉しいですわ~♫ 私も同志でございます…(コソ)wぷぷぷ
ライオンマリナちゃんに、腹ボテマリナちゃん(うわ~もうなんかどんなジャンルですか汗)でも愛してくれるvオシエルミシェルくん…もうなんだか、キワモノすぎてわやくちゃです///心ん中が(うわーみなさんひかないで~笑)
ねーともんさん~、不思議とらぶらぶですよねぇ!?このふたりっ*><* あんなにチクチクいじめてるのにvああ愛なのねvって思えちゃうのは、ナゼなのでしょう!? 
ドツキ夫婦漫才~~~!! あははははh、なるほどーv ぷるもこういうノリLOVEですよー、つかかえってこっちの方がぷる的絶賛好みですw 自分が甘い雰囲気に耐えられないタチなので…ふふふ(泣) ヤガル弁!!(大笑) ともんさん、サイコー!(^∇^) そだよね~ひとみキャラにはありえない下町っ子ぶりですよねぇ!ごめんね~~~ww(^^;
原作でちょこっとしか活躍しなかったけど、それがサイワイ(!?)して、ミシェルくん二次では大活躍ですよね! ぷるも再びNETに戻った時、驚きましたものv 20面相もビックリの変幻自在なミシェルに(笑) いろんな書き手様に愛されてるミシェルくんは、もしかしたらある意味一番シアワセかもしれませんね、ひとみ創作の中で^^ …ぷるが、勝手なことすんな冷凍光線浴びせられるのは、決定ですがね…ええ^^;
本編はコジカちゃんの意に添えてるかどうか、愛の暴走するママなので申し訳ナイのですが(笑)そですね、いろんなミシェルを楽しめてぷるも嬉しいです! 
ともんさん~~w嬉しいお言葉ありがとです~(T∇T) 
…なんせオシエル闇編…ブッチギリでうわーな話だからさ~みなさんが書かれるような爽やかさ、コレッポッチもないからさ~最近ちょい自分でもうーんvだったけど、書いちゃった以上FINつけなきゃ、ゆうんさんにも申し訳たたんもんね!笑 これからも、ヒッソリオシエルがんばってくよ~v
ヤガルWILDミシェルくんwこれからもよろしくお願いいたします~笑 m(_)m

PS ふはははは、果たしてホントにミシェルくんのコドモかなぁあ~???