2011/06/02

再び聖ファロ病院 6:38pm


「ダニエル! 今運び込まれた患者の名前は!?」
「な、なんだよ、せまるなカークっ。いくら女が苦手だからって、オレはソッチの趣味はないぜ」


まだロビーで事情聴取をしていた、さっきの若いおまわりさんをつかまえて、あたしたちはにじりよった。
こら~! 冗談言ってる場合じゃないのよっ!
「じゃああたしが聞きましょうかっ! 今来た患者さんの名前と容態っ、どーなってるのっ、さあきっちりすっぱりべろっと吐けっ、すっきりしてしまえっ!」
二人の間にぬぼっと顔を出したあたしを見て、ダニエルはエビもビビルほどに後ずさりやがったのよっ、失礼なっ。
「さ、さっきお前らが探してたジベールって男だよ。ただの骨折みたいだぜ、今3階の3番手術室に入ってる。
……そ、そいつから離れろカークっ、オレの野性のカンが言っている! 
そいつはキケンだと!」


この…あ、アホ警官!! 
一発殴らせなさいっ、こらっ離せ、カークぅぅぅぅ!! 
そしてなんであんたまで笑ってんのさっ、あんたも殴ってやる~!!
笑いをこらえたカークにはがいじめされたまま、あたしはエレベータに引きずられていったのよ、きいっ!






降り立った3階フロアーは、さすがに手術室があるからか、なんだかピリピリとした雰囲気が漂っていた。
ちょうど目の前の自動ドアが厳かに開いて、シカメっ面して出てきた金ブチメガネのドクターに、カークは警察証を見せて詳細を聞いた。
するとなぜかそのおじいちゃんのお医者さんは、思いっきり鼻に皺を寄せて、
「心配いりませんよ、まかせておけば大丈夫でしょう」
といかにも煩わしそうに言って、さっさといっちゃったのよっ。
ち、ちょっとぉっ、あれだけ苦労してその態度って…なんかクヤシイわあっ!
―――ま、とりあえずこれで夫婦がちゃんとそろったんだから、よしとしましょうか、はあ~。
「もう心配なさそうだね、マリナ」
「そうね、いろいろありがとカーク、あんたがいてくれて助かったわ。
あっ、イレーヌに教えてあげなくちゃっ」
その時イレーヌは、なんとお向かいの1番手術室にいるのだとわかって、カークとあたしは思わず笑ってしまった。
結局あたしたちがジタバタしても、神様は上手い具合に、ちゃんとやってくれてたんだって。
「イレーヌ! イレーヌ聞こえる!? 
あんたのだんなさんはちゃんとここに、あんたのそばにいるわよぉっ」
「バカ、マリナっ、こんなところで大きな声出すなよ!」
「だから心配しないで、ぽーんと丈夫な子を産んでちょうだいよぉ! 
イレーヌ、わかったー!?」
カークの大きな体をかいくぐって、ちょろちょろと逃げ回りながら、あたしはこの声が彼女に届くようにと祈りながら、ありったけの声で叫んだの。
それは見事に届いたらしく、血相変えて出てきた助手の看護婦さんに、いやってほど怒られてしまったんだけど、カークが事情を説明してくれて、その顛末は無事にイレーヌのもとに届くことになった。
「あの、彼女大丈夫なの!?」
あたしが聞くと、どっしりとした看護婦さんは笑ってこう言ったの。
「平気も平気、こうして誰もが産まれてくるんですもの、あの子の場合はそれがちょっと急だっただけ。
母親になる女をなめちゃいけないわよぉ。
安心して、そして信じてあげていて。
苦しみのあとには、それは素晴らしい世界が拓けているの、痛かったことなんかチャラになっちゃうほどのね」


こうして誰もが。


その言葉にあたしの脳裏に、さっきの魂を削るような、イレーヌの苦しげな表情がよみがえってきた。
ああ、どんなに痛いんだろう、苦しいんだろう。
苦しんでそれに耐えて、命を産む全ての女の人が、とてつもなく偉大に感じて、そして新しく誕生する命がとても神聖で、尊いものに思えた。
それは昔からずっと続いてきた当たり前のことで、かつてはあたしもそうしてこの世に誕生したのだ。
そう、ずっと前の今日、この日に。
あたしの関わった全ての人、大切な友人たち、このカークも…そして大好きなシャルルも。
そして幸運にも、あたしは今日、新しい命の出発に関わろうとしている。
これってすごいことなんだわ、誕生日って―――、本当に素敵なものなのね。


イレーヌ頑張って。
これからまた広がる世界を、あんたは産み出そうとしてる。
どうしよう、あんたを今すぐ抱きしめて、キスしてあげたい気持ちでいっぱいだわ。
わき上がってきた涙に気付いた看護婦さんは、あたしに微笑んで、「いつかはあなたも、それに気付く日がくるわ」と言うと、人差し指を唇に当てて、だから静かにと目で言った。


「もうひとつイレーヌに伝えて。
あたしここで待ってるから、あんたの赤ちゃんの誕生日を一緒に祝わせてねって」
カークが訳してくれたあたしの言葉を聞いて、あたたかく微笑みうなづくと、彼女は手術室に戻っていった。
その時、扉が開いたと同時にイレーヌの叫び声が聞こえて、あたしは祈るように両手をぎゅっと、組み合わせた。


あんたを信じてる、頑張って、イレーヌ!!





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2 件のコメント:

ともん さんのコメント...

ぷるぷるさん、何かも~感動して、朝から涙が・・・(T_T)

この回マリナの大きな愛の形をした、作者のぷるさんのあつ~い愛情感じます。

癒やされましたよ~本当に。

惜しみない沢山の愛情ありがとうございました^^

ぷるぷる さんのコメント...

ととと、ともんさん!!*><*
き、来てくれたのっ!!?ありがとぉおおお(TT)
体調いかがですか!?だいじょぶ?楽にしてる??楽しい???
うわ~うれしい~v 大事な時間使ってくれて、ぷるこそ感謝だよぉ!
実はジュトゥヴ、かなりあさんに頼まれたってこともあったけど、ともんさんにエールの意味も込めてさせていただきました~*^^*
自分も3回切腹はしとりますが、あの痛みって…”もう二度とするもんか~っ><”と思っても、町で赤子の顔見ちゃったりすると、コロっと忘れちゃうんですよねぇ(笑) 仕事を終えた後の(笑)達成感!?w チャラになっちゃうんですよねぇ^^; ここは、そんな自分体験を踏まえ、マリナちゃんにそのことを教えてあげたくなった章でしたw
こうして誰もが、私もあなたもこの空のしたにいる。NET越しでも大好きな萌え話ができるw ありがたいことです。とーちゃん、かーちゃん、かみたまありがとう!^^
昔はもらうプレゼントにばかり気をとられたもんですが、誕生日というものの認識を改めさせられた創作でした^^はは~
ともんさん、これから大変でしょうが、ゆったりまったりしてくださいな。癒されてくれたなんてっ>< えっへっへwぷるウレシイですわ☆よかった!
愛はなくなりませんからね~(笑) 共にだっぷんだっぷん生産していきましょうwね、ともんさん☆

『あんたを信じてる、頑張って、ともん!!』(^∇^)/
こちらこそっ、いつもお話してくれて、ありがとうございます!ww