2011/06/02

アルディ邸 9:23pm


とにかく無事ならいい、早く君の顔が見たい、オレを安心させてくれマリナ!
他のどんな罰でも受ける覚悟はある、だけど、君を失ってしまったら―――!!


「マリナは帰っているか!?」


玄関に迎えに出た執事に詰め寄ると、彼は荷物を受け取りながら申し訳なさそうに、首を横に振った。
―――目の前が暗くなるとはこういうことなのかと、意識のどこかで茫洋と思いながら、オレは内線をつかんだ。
「私だ、緊急配備を命じる。
捜索者は日本人女性、池田マリナ―――1チーム5名、聖ファロ病院から半径2,5km間隔、メトロを使用した可能性あり、アルディ本邸までの足取りをつかめ」
手早く言って、オレは書斎に移動すると市街地図を広げ、マリナの足取りをもう一度シュミレートしてみた。
オレより先に乗ったはずなのに、まだ帰りついていないなんて―――考えたくはないが、やはり何かのトラブルに巻き込まれた可能性は、否定出来ない。
もしそれがアルディを、…オレを陥れる為に、彼女を狙ったのだとしたら…。
オレの思考は冷静さをとうに欠き、恐ろしい想像ばかりがわき出して、それらは狂わんばかりにオレを責めたて、荒れ狂い、破壊の腕で全てを覆おうとしていた。


こんなことになるなんて―――!


なぜ今日、彼女のそばにいなかった!?


かけがえのない、大事な日だというのに……オレは、馬鹿だ。


握りしめた拳を机に叩きつけたその時、緊張を破る内線の呼びだし音が、鳴り響いた。
一瞬躊躇したが、祈るような気持ちで、オレはそれを取り耳を傾けた。


『マリナ様が今、お戻りになられました!!』










「マリナ!!」
長く続く廊下が、永遠の距離のように感じる。
使用人に囲まれた彼女は、玄関先で困惑したように視線をさまよわせている。


マリナだ―――あそこに、いる。オレの視線の先に。


早く触れてそのぬくもりを感じたい、蜃気楼のように消えてしまわないでくれ。これはオレの夢ではないよな?
君が恋しい。


君が、欲しい。


マリナ、―――オレの輝き。






さまよわせた視線の先にオレを認めたマリナは、しかしなぜか背を向けて、急に脇の部屋へと逃げこんでしまった。
全くマリナの行動は、理解に難い。
オレたちは、一生交わらない平行線上でしか、生きられないのだろうか。


様々な感情の渦に翻弄されながら、オレはその小さな背を、ひたすら追い続けた―――。








シャルル編 FIN






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