2020/04/15

~雨ふり3(※途中で地下へ)









ひとしきり騒いで再び大きな腕の中に戻ると、マリナはボサボサ頭のまま、淡い視線をどこか遠くへ向けつつも、しっかりと言葉を紡いだ。
「町で一人一人を診るより、100人千人、ううん、もっと多くの人達を救うことよね。
町のお医者は先生ありがとうって、患者さんからすぐにお礼もらえるけど、ずっと研究室にいるあんたには、例え何万何百万て救えたとしても、そういう声なかなか届かないわよね、さみしくない?」
そう言いながら青灰の瞳をのぞき込み、マリナはじいっとシャルルを見つめた。
「ねえシャルル、あんたのすごさはあたしが一番知ってるからね。
大きすぎる山ってさ、遠くにいるとその大きさってわかりにくいものなのよね」
その時の彼の衝撃が、わかるだろうか。
おそらくどれほどの言葉をもってしても、彼の胸中に湧き上がった想いを表現することは、難しいだろう。
しかしいとも簡単に、マリナは多大な重責を負う彼をあばき、癒やすのだ。
たまらず、ささやかな胸元に顔を埋め、シャルルはじんと痺れる多幸感に緩みそうになる涙腺を制御する。

「誉めて、マリナ」

言って初めて、これは今まで口にした事のない言葉だと、優秀な頭脳がはじき出す。
甘えるという事が出来なかった彼にとって、こんな形容し難い感覚は、あまりに面映ゆく当惑すら感じる。
この年齢でのこの所業、相当に、恥ずかしい。
「いいこいいこっ、ホントにあんたはすごいわ」
しかし真正面から受け止めて貰うと、こんなにも快感なのだと、シャルルは初めて知る。
乱暴に白金の髪を撫で、さらにぎゅっと抱きしめ頬ずりしながら、マリナは続ける。
「あんたの偉業は未来にまで引き継がれて、ずっとずーっと輝き続けるのよ。
それに関わったすべての人が、あんたに感謝し、あんたを褒め称えるの、すごいわねぇ、シャルル!」
胸がいっぱいになりながら、シャルルは少し頭を起こし自分を撫でる小さな手をとると、そっと口づけた。
「でもオレは、この手に誉められるのが、一番嬉しいよ……」
瞬間、驚くほどみるみる真っ赤に頬を染めあげたマリナが、きゅっと眉を寄せながら、シャルルの首元に飛び込んでくる。
「あ……あんたって、なんてカワイイの! 嘘ヤダっ、きれいな上に可愛いなんて反則よぉ! うわーん、シャルルのばかばかぁっ、心臓こわれちゃうじゃないっ」
半泣きの完熟トマトみたいな愛しいふくれ顔に、胸がしめつけられる。
早鐘のように鼓動を打つその場所に唇を寄せながら、「そうなっても必ずオレが助けるから、絶対に、ひとりになんて、しない」まるで心臓を諭すように低いテノールが響くと、マリナの身体は歓喜にわななく。
こぼれるような吐息にまぎれ、少し涙を拭いながらマリナは明るく笑った。
「あんたが名医でよかった、何回キュン死にしても助けて貰えるのよねっ」
「そんな症例は診たことがないから、じっくり検証させてもらうよ、楽しみだ」
「言っとくけど主な原因はあんたなんですからねっ。 あっ! あのさ、シャルルぅ……?」
「散歩の前に食べたばかりだろ、もう腹ペコなのかい?」
「ちがうわよっ。その、こ、今度ねっ、あのー」
「なに」
「へっ、ヘンな意味じゃないわよ!? 全然違うからねっ、勘違いしないでよっ、いい!? 
……だからぁ、今度屋敷でさ、あ、ううんっ、あんたのアパルトマンでっ…白衣着て、みせてくれる?」
久々に不可思議な沈黙が流れる。
いぶかしげに眉を上げるシャルルは、上目遣いでシーツの影に隠れているタヌキ顔を見下ろす。
「白衣なんて君の前でいくらでも着て、ああ―――フフ、なんだいマリナちゃん、コスチュームプレイをお望みとは恐れ入ったね」
「なっ! ち、ち、チガウったらっ!! そ、そんっ、そんなんじゃないもん!!」
「そんなにムキになって否定するあたり怪しいね。なるほど、君の好みはインテリゲンツィアか、だからオレを選んでくれたのかな? 光栄だね」
任せて。
ふいに耳元深く濡れたような呟きを埋めこまれ、マリナは思わず身体の芯がズクンと疼いた。
「オレたちは相性いいぜ。なにせ究極の天才と、その対極にある女性だからね。
互いにないものが補いあえるってわけだ」
「天才の反対って……それって究極のバカってことじゃないっっっ!」
声を上げて破顔しながら、シャルルは愉快そうに、暴れるマリナの拳を避ける。
心と身体が、羽根のように軽く感じる。軽快で力がみなぎり、今なら空も飛べるような気がした。
「もうっ、あんたなんか知らないっ、あっち行ってっ」
「残念だね! 今日のベッドはシングルなんだ、どうしたって距離は取れないぜ……フフ。
たまにはこういうのもいいね…マリナがすぐ隣にいるというのも」
「そうかしら、あんたのことだからあたしがイビキでもかこうもんなら、ベットから蹴落とすんじゃないの!? このっ、にくったらしい、長いアシでっ」
笑い合いながら再び背面からマリナを抱きしめ、シャルルはその幸福にしばし、意識のすべてを手放し溺れた。
「わかるかいマリナちゃん……こうすると、君とピッタリ寄り添える。
ルパートに追われた時、上着を取り替えたことあったろ。当時よりはボディサイズは少し変わっているが、オレたちは上背が比較的近いよね。
こんなに身長が違うのに、これは幸運なことだと思わない? ねぇ、驚異の胴長マリナちゃん。
まるでほら、パズルのピースが嵌まるように、こんなにもしっくりくるんだ」
「しっくりって、ちょ、い、一部分問題ありでしょっ///
うぅ、ひきょーものっ、背中から攻撃するなんて意気地なしのやることよっ」
「おやおや、攻撃なんてそんな哀しいこと言わないでくれよ、君のせいでもあるんだから……」


しばし真夜中の恋人へ…👉 地下の雨ふり3











地下からの続き👇


「雨の音だけ、聞いておいで」





コン コン


(シャルル様、お迎えに参りました。それと着替えも。
……シャルルさまぁ? マリナぁ? あれえ、この部屋だよな…?)





「だ、ダ、ダリ……っ!?」


それは馴染みの若手運転手で、わざわざ難解な日本語を習得し、イタリアから何度もアルディ家の使用人雇用試験に挑んだ、変わり者の青年だった。
ふたりの生活にかなり密着した、日常には欠かせない存在で、特にマリナなどはコッソリお忍びで色々と世話になっている貴重な人材だ。
ビクリと身体を震わせたマリナの目の焦点が、日常という通常に合っていく。
まさに一つになろうその瞬間、押し進めようとした腰の行き場を無くし、シャルルは忌々しげに舌打ちをした。
何せここは普通のB&B。
シャルルが定宿にする様な、ハイクラスなホテルではない。
ドアから5メートルと離れていないこの距離感、薄い壁と扉、セキュリティもへったくれもない。

コンコンコン コンコン

(っかしいな、寝ちゃってるのかなぁ……)

次第に遠慮がちなコンコンから、拳を打つドンドンに変わり、まだ年若い素朴な青年は、不器用にも執拗に雇用主へのコンタクトを試みる。

(シャルル様ぁ、起きていらっしゃいますか?)

ドンドンドンドン ドン

そろそろ苦情がくるだろう大きさにまでそれがなった時、

「ダリオ! 服を置いて車で待て!
まさか廊下に直置きになどしていたら、故郷に即刻送り返すぞわかったな!?」


シャルルが、キレた。
さすがに気の毒だが、これは致し方ない事である。
(あっ、はは、ハイっ。
あのぉシャルル様、恐縮ですが、せめて携帯電話の電源を入れていただけませんか? 
お願いします、執事長からオレが叱られてしまいますぅ、せめて、せめて電源を! シャルル様あっ)
しかしさすがアルディ家の使用人、運転手に至るまで見事な日本語だが、今はその物悲しげなイントネーションすらが、非常に面白い。
シャルルは重い吐息をつき、それこそ苦虫を100万匹噛み潰したような仏頂面で、しぶしぶ身体を起こし、窓際に放置してある携帯電話を手に取り電源をオンにする。
途端に鳴り響く通知の山にうんざりしつつ、シャルルは不本意そうにマリナのもとに戻った。

「フ、ふふ、あははははは! 帰ろっか、シャルル?」

「もう少し休んでからだ。過労死しちまう」

シーツをはね上げ再びマリナを抱きしめると、名残惜しそうに、長い指先で弾力のある肌を撫でる。
最近わかったのだが、ふたりが揃うと途端に力が抜け、ブレーカーが落ちるように眠気に襲われることが多々あった。
「ふふ、そーね。ふわぁ~……ちょっと だけ、昼寝、して……」
素朴なコットンのたっぷりした枕に背を預けたシャルルの脇に埋もれ、いつもの定位置でマリナは、みるみる睡魔にその意識を奪われる。
あれだけ誘惑しておいて、あっという間に夢の住人。
すやすやと眠る安心しきったマリナの額に口づけつつ、腰の疼きに耐えながら、シャルルは執事室にメッセージを打つ。
事後ポイと端末を放り、小さな丸い裸の肩を愛おしそうに抱き寄せて、彼も目を閉じた。
夢では絶対に、逃がさないよマリナ。
そう内心呟きながら、甘い香りに、心から身を浸す。







追記
悲惨だったのは忠実なる忠犬、ダリオであった。
待てと言われたからには、動くわけにはいかず、食事や生理現象にも限界まで耐え、いつ主人が出て来ても対応できるようにと一昼夜ひたすら待ち続けたのだ。
もちろん執事室に問い合わせれば、状況はすぐに分かったのだが、主を苛立たせた手前挽回のチャンスに目がくらみ、それをまるっと失念していた。

翌朝雨もすっかり上がり陽も高く上る頃、表に出たふたりが見たものは、打てどすかせど一向に起きない運転手の姿だった。
セーヌに落としていこうというシャルルをなだめ、ふたりがかりで彼を運転席からどかし、主自らがハンドルを握り帰路につくという、奇妙な幕切れの散歩であった。







Après la pluie, le beau temps.【雨の後は良い天気】
※フランスの諺「雨降って地固まる」

Fin







2020/04/15
読んでくれて、ありがとう☂☀

2023/03/05
😂エロ警告うけちゃってwww
2,3は途中地下へ埋没いたしました!
読みにくくて本当にゴメンね!💦
完全版はデジ同人のジュトゥヴへ収録シてあるからヨロシクです♪





† † † † † † †

と、まあ(*ノωノ)!!!!!!!!
ただのイチャイチャの為だけに2万字弱も書くオレ! ザ病気!!ww
おこもりのおヒマつぶしになれば幸いです☔💘
(ちなみにオリキャラのアルディ家下っ端ドライバー(でも優秀)ダリオ君ですが、別創作の【ジュトゥヴ】でもシャルルに車に置き去りにされてますwww)


ぷるは雨の音が物凄いスキでして…/// まあいつも作業する時は音で耳をフタするんですが、雨音+洋楽がイチバン最強でございます♪

それはさておき……コレやっぱ表に置いちゃイケナイやつなんでは(;´∀`)
モノが!!(笑)

ま、まぁもうマダムなお嬢様方しか来ないだろうから
い、いっか……!!!(あかん? アカンか!?w)


とにかくシャルマリ 超優勝!🎉🎉🤣


2 件のコメント:

春見 さんのコメント...

マジGJ。
だってさ、濡れた服のままじゃいかんやん。愛しい女が風邪ひいてはあかんやろ。
肌と肌と密着したら、切なさが埋まるやん。
だから、ぷるぷるさん、最高と言わせてください。
ありがとうございます。
心が豊かになりました。

ぷるぷる さんのコメント...

ムキャァァアアアア(*ノωノ)

たたた、隊長!! コメあざっすーーー!<(_ _⋆)>

うわうわうわ、なんだろう、ものっすごい昔に戻った感!!(´;ω;`)
LPDに帰ってきた感っ✨ いええぇええい優勝ー!
GJ、ありがとうございます!
そぉうですよね? 濡れてちゃ風邪ひいちゃいますしー? だったら徹底的にヌレヌレになった方がいいですよねー??(爆笑)

でも☔にやられてちょっとおかしくなっちゃったふたりを書きたくてwwwジラジラ焦らしてみますたっ(`・ω・´)ゞw
隊長に楽しんで頂けてヨカッタです!!!イエイっ

毎日トンデモ大変事態ですが; 萌えてぱわー貯めて乗り越えたいっす!
今年はLPD復活に力入れて💪✨ シャルマリまみれになる予定ですので(笑)隊長にもヤンデレ監禁を捧げたいですしーっ(問題発言ww)

ほんとに来て下さりありがとうございました///
こちらこそふっくらモッチリ、ヤマザキ春のパン祭り状態(謎)ですおおおおおおおおぉおおお✌('ω'✌ )三✌('ω')✌三( ✌'ω')✌

がんばりますのでっ♪ 見ていてつかーさいっ
春見さんもくれぐれも萌バリアーはって、ご自衛くだされ!!

コメありがとございましたぁぁん!(*´▽`*)